2005年10月19日水曜日

バイオテクノロジー人工臓器


ナノテク医療か再生医療か?

バイオナノテクノロジー人工臓器研究会


 再生医療とナノテクノロジーは、人工臓器の未来に新風を吹き込む新しい研究分野として脚光を浴びています。
 再生医療による臓器再生は、例えば皮膚などの分野では既に臨床のレベルに到達していますが、内臓単位の大きさのものの再生となると一筋縄では 参りません。特に心臓などのように動きの機能を持つ内臓の再生医療は簡単ではなく、心筋シートは作成できても、心臓丸ごとを作成するのとでは大きな違いが あり、この方面の研究はまだ飛躍的なブレークスルーがないと実現は不可能でしょう。
 人工臓器工学は、腎臓、心臓などの面では既に日常臨床の供されているものもあります。透析療法は日本全国どこにいても受けることができるよう になり、腎不全患者の生命を救っています。またアメリカでは完全置換型人工心臓アビオコアの臨床治療試験が開始されていますが、欧米で開発された人工心臓 はほとんどの日本人には埋め込めない大きなものになっています。そのため日本の末期的心不全患者は、補助人工心臓を装着されて移植を待つ患者がほとんどで す。これも小型の埋め込み型補助人工心臓の開発は全世界で進められていますが小型化にはブレイクスルーが必要です。また、人工肝臓、人工膵臓、人工消化管 などの分野では、再生医療とのコンバインが企画されています。
 従って、現状では再生医療も人工臓器工学も一長一短があり、両者がコンバインして発展を続ける必要があるでしょう。
 そのために結成されたとも言えるのが、日本エムイー学会専門別研究会、バイオナノテクノロジー人工臓器研究会です。

第1回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成15年 5月23日)
第2回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成15年10月22日)
第3回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成15年10月31日)
市民公開講座(平成15年11月1日)
第4回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成16年 1月24日)
第5回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成16年 4月26日)
第6回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成16年 7月30日)
第7回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 11月5日)
第8回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 3月 4日)
第9回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 4月27日)
第10回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 5月23日)
第13回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 10月 9日)

  再生医療の分野では、現実には臓器単位で再生させることは三次元構造などの構築の面でなかなか難しいものがありますが、神経の再生を促したり、皮膚の再生 を促すマテリアルは臨床に近い線まで進んでおり、一部治療試験も開始されています。皮膚形成を促す創傷治癒促進効果を持つバイオアブソーバブルマテリアル などは商業ベースで臨床応用されています。
 このようなナノバイオマテリアルを応用した再生医療の試みは、長期動物実験の段階まで進んでいます。図に提示するように、内視鏡画像では消化管の粘膜の再生が促されつつあります。
 これが、再生医療技術を応用して作成されたバイオナノテクノロジーによる人工消化管です。
 消化器外科手術では再建のための消化管が必要になります。食道癌手術などでは食道の再建のために開腹手術も必要になるので、患者の侵襲が大 きく、体力のない患者や高齢者は手術できません。また小腸の手術後、残存小腸が短いと、短腸症候群により患者は静脈栄養なしには生存できなくなります。
 従って、このようなバイオナノテクノロジーによる人工消化管があれば応用範囲は大きいものがあります。このように再生医療技術を人工臓器の分野にも応用していくことで長足の進歩が望まれます。
 心臓の領域でも、再生心筋が注目されていますが、一枚の心筋シートはできますが、三次元的に構造を再構築して心臓を作成することは事実上不可能です。また血管の再生が困難で四層以上の心筋シートは重ねても心筋細胞が壊死するだけになります。
 ここではナノテクノロジーがブレイクスルーをもたらします。
 形状記憶合金は、体積比で人間の筋肉の千倍もの効率を誇る優れたアクチュエータとして有用性が高いですが、耐久性が問題です。
 近年のナノテクノロジーの発展はこの分野にもブレイクスルーをもたらしました。
 図に提示するように、形状記憶合金では分子結晶配列が整わずに、バラバラな方向に走る結晶が耐久性の限界をもたらすわけですが、近年のナノ テクノロジーの発展はこの問題を解決し、従来型の千倍もの耐久性を具現化しています。従ってこの分野では、ナノテクノロジーの発展が再生医療の限界を凌駕 していることになります。再生医療工学、ナノテクノロジー、人工臓器工学のコンバインにより、臨床応用可能な新しい人工臓器が花開いていくものと大きく期 待されます。
 平成17年度は、再生医学関連の学術集会や医用アクチュエーション技術に関する協同研究委員会などとの協同での学術集会や学術研究を企画しています。
会長:山家智之 連絡担当幹事:岡本英治 
幹事:三田村好矩、山根隆志、吉澤誠、田中明、白石泰之、仁田新一、井街宏、増沢徹、

人工臓器学会シンポジウム


ダメな国=日本:
日本の人工臓器の開発はなぜ進まないか?


 日本はなぜこんなダメな国になったのか?
 それを改善するにはどうすればいいのか?ー人工臓器をフィールドにこの問題をディスカッションする。
 80年代の一時期、全世界に先駆けて日本の補助人工心臓は製造認可を得、盛大な勢いを見せた時期が合った。ところがその後、医療機器産業の うち診断機器の開発については本邦も順調な発展を見せているが,治療機器,なかでも体内埋め込み型医療機器の開発は,欧米に比べて著しく立ち遅れている。
 仙台市で開かれた第41回日本人工臓器学会は、この問題に注目し、対策について活発なディスカッションが行われた。
 シンポジウム
 「人工臓器の開発,動物実験・臨床前試験・臨床治療試験はどうあるべきか? 日本人工臓器学会の役割」
 (司会=埼玉医科大学心臓血管外科・許俊鋭教授東北大学加齢医学研究所・山家智之助教授) では,人工臓器をはじめとするわが国の医療機器産業の現状と課題について討議された。
貿易収支において増大し続ける治療機器の輸入超過  

厚生労働省による統計によれば、近年の医療用具の貿易収支で治療関連機器の輸入超過額は増加の一途をたどっている。わが国の治療関連医療機器開発の立ち遅れの原因はどこにあるのか?
 例えば代表的な埋め込み型人工臓器である完全置換型人工心臓や補助人工心臓(VAS)を例として考えた場合、開発研究や動物実験のレベルで は,欧米に比べて著しく遅れているわけではないという。多くの医師や患者は実用化を望んでいるにもかかわらず何故か日本発の新医療用具が臨床応用されな い。
 この問題に関して、司会の山家助教授から開発者の立場からのセッションの進行が行われ、日本を代表する人工臓器研究開発施設から臨床へ展開す る際の人工臓器学会への役割について討論が進められた。更に司会の許教授からは、臨床応用の立場からの提言が行われ、人工臓器の臨床試験が遅々として進ま ないことを指摘した。治験が進まない要因として,①医薬品と比較して,医療機器産業では事業規模が比較的小さい企業が多く,大規模臨床試験を遂行するため の十分な人的資材,経済的基盤が整わない ②医療機器に対応した独自の臨床試験のルールやガイドラインが未整備で,医薬品と同様の大規模試験が要求される  ③プラセボ効果の排除のためのランダム化割り付け試験が医療機器では困難,もしくは不可能であり,多くの医療機器ではその必要性がないにもかかわらず, 医薬品と同様に求められる-ことを挙げた。
ビジネスとしての成立は困難
VASの製造メーカーは,実際にVASの開発に当たった企業側から見た問題点として,開発に必要な時間の長さと予想の難しさ,開発費の回収手段の難しさ,保険適用の可否の見込みリスクなど,現状では新規医療用具の開発はリスクが高いと指摘した。
 さらに,VASの開発をスタートするに当たっては,調査を実施してビジネスが成立するとの予想はあったが,実際には見込み違いや誤算により, 結果的に採算の合うビジネスにはならなかったと述べた。その理由として,①市場規模の誤算②治験症例数や期間など③保険適用時期の誤認-を挙げた。
 たとえば、心臓血管外科手術における手技,機器,薬剤の進歩で成績が向上し、開発開始当初,手術例の10%と予想されていたVASの対象例数 が10分の1となった。さらに経皮的循環補助(PCPS)など,代用法の発達の影響も大きい。VASの保険適用価格が予想より低く,さらに症例数も少なく なったことから,開発費の回収が不可能となった。②については,症例数の少ない医療機器でも正規の治験数が必要で,研究臨床に3年,臨床試験に4年を要 し,費用が増大化した。③については,製造認可と同時に保険適用となると考えていたが,4年間にわたり保険が適用されなかった。
 また,混合診療の禁止により,すべでの医療行為が保険適用外となり,患者負担での適用はほぼ皆無であった。
 さらに製造認可の取得と同時に高度先進医療に適用されたものの,5例の実施例がなければ対象とならず,患者負担で症例数を伸ばすことができず 適用施設を増やせなかったことなどから,「現状では新規医療用具の開発はリスクが大きく,企業にとってはビジネスとして扱いにくい」との意見があった。                  
新しい臨床試験実施基準づくりに学会が積極的に関与
 こうした医療機器産業が抱える諸問題への取り組みとじて,現在,日本人工臓器学会では,内閣府および厚生労働省に対して「臨床治験の推進」を提言するとともに,産業界に対しても臨床試験に関する実務面でのサポートか必要と考えている。
 具体的には,臨床試験・臨床評価のガイドラインの作成,埋め込み型VAS施設認定基準に関する提案などほか,産業界に向けた臨床試験の実務 的サポートを担う。また,単独では治験審査委員会を持つことが困難な小規模施設でも医療機器の臨床試験が実施できるよう,人工臓器学会治験審査委員会 (ARB)の設立構想などが進められている。これらを通じて日本人工臓器学会では,平成17年度に施行が予定されている医療機器のための新しい臨床試験実 施基準づくりに学会員が積極的に発言し,また,前臨床試験のルールづくりなど医師主導の治験の在り方を巡って積極的に関与してきた。
 人工臓器学会理事長の許教授は「産業立国であるわが国の将来にとって,医療機器産業の育成は必須条件であることの認識が希薄だ。移植医療と 同様;わが国の医療はわが国のリスクと責任で推進するとの基本的認識の確立が急務である」と述べ,メデイアや国民に強力なサポートを要請していくことの重 要性を訴えた。
学会主導で早急な社会基盤整備を 
 経済原理のもとでの人工臓器の研究開発は,米国を中心にし烈化している。これに対し,基礎研究が中心で産業界とのつながりが不十分であり,治験体制に未整備な部分を抱えるわが国の現状では,日米の格差は広がるばかりである。
 さらに,基礎開発研究の分野では,いわゆるボストゲノミクスの基礎研究を発展応用した先端医療の登場により,従来の 治療概念は根底から覆 り,変革されつつある。大阪大学大学院臓器制御外科の澤芳樹講師は,こうした変革に対応するために,高いレベルの基礎研究を基盤に,研究者のための研究で はなく,経済性や産業化の可能性を視野に入れた開発が必要だと指摘した。  
 わが国の人工臓器研究開発における臨床試験を優先的に推進するためには①国際競争力に優れた国産人工臓器への臨床試験用経費も盛り込んだ集 中的大規模予算の投入②大企 業等産業界の積極的参入の援助③新規医療用具に対する厚生労働省の迅速審査④混合診療の認可などの保健診療制度改革による臨 床試験経費の軽減-などの社会基盤整備が重要で ある。また,そのための課題として,①機器の臨床評価の科学的根拠 ②医療機器の特性に配慮した具体的な 基準による整備研究開発の価値評価 ③製品化に向けでの周辺企業の支援④リスクや費用などの医療経済学上の評価⑤リスクとリターンにかかわる適切で的確な 議論-が必要である。同講師は,こうした課題を踏まえたうえで「医療機器開発にかかわる自主的ガイドラインを作成し,日本人工臓器学会が指導的立場に立 ち,早急な社会基盤整備と先端的人工臓器開発を積極的に図れば好循環が生まれうる」と述べた。
改正薬事法の大きな変更点に
 一方,厚生労働省では,現在,薬事制度の見直しを進めている。同省医薬品医療機器審査センターの木下勝美氏は,「今回の薬事法改正のなかで,最も大きな変更点が医療機器 に関する見直しである」と述べた。
 同省では今回の制度改正のなかで,医療機器の進化に伴う構造の複雑化とともに,医薬品以上に多様な技術や素材が用いられている特性に対応し て,医療機器にかかわる安全 対策を講じるため,臨床試験実施基準(GCP)や非臨床試験実施基準(GLP)など,これまで十分に法制化が進められてこな かった部分について,医薬品と同様にルールを整備するとしている。 
 また,医療機器をそのリスクの度合いによってクラス分けし,多種多様な機器のおのおののリスクに対応した合理的な規制の構築を目指している。
 なお,認証機関についても,平成17年度からは,リスクの低い医療機器に対しては第三者認証制度が開始予定とされている。来年度から(財) 医療機器センター,(認)医薬品機構が廃止され,国立医薬品食品衛生研究所の医薬品医療機器審査センターと統合され,新たに医薬品等にかかわる研究開発業 務,医薬品調査等業務,および救済給付業務を行う独立行政法人が設置されることが決まっている。この法人は今後,医療機器安全対策の中核的役割を担うこと になるが,工学系の審査官も含めて審査官の増員が予定されており,これまで問題となっていた審査官の員数が改善され,医療機器の承認審査体制の充実強化が 図られる見通しとなっている。 
 さらに,新たな承認審査制度では国際的整合性の取れた審査体制が構築される予定で,医療機器規制の国際整合化会議(GHTF)での合意基準のほか,国際標準化機構(ISO),国 際電気標準会議(IEC)についても積極的な取り入れが図られる予定である。
 同氏は「今回の薬事制度の見直しによって,現審査制度が抱えている問題が解消され,わが国の医療機器産業の発展につながることが期待される」と述べた。
Medical Tribune誌より一部改変

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