2010年8月16日月曜日

独逸出羽守


ドイツ出羽の神。

 まあ比較的、人工心臓の研究はちょぴっと珍しいので、時々、見学に来てくださる先生方も、たまにはいらっしゃります。
 少し前、東北大の脳磁図の研究の見学においでになったドイツ人医師の、奥様でもある医学生さんが東北大の人工心臓を見てみたいと希望され、夫妻で 見学にお出でになりました。来ていただいて、びっくりしたのは、奥様はなんと日本人で、ドイツに留学後、むこうで医学部にちゃんと合格してドイツの大学の 医学部に通っているとの由。うちの人工心臓や人工食道、括約筋などを、ご紹介し、施設や教室をご案内しながら、話しがてら向こうのシステムを聞いて、 ちょっと驚きましたが、ドイツの大学の医学部は、600人くらい入学して、その三分の一が基礎医学の段階で、もう三分の一は臨床の段階で落第させられると 言います。つまり、600人のうち、200人だけが卒業し、その他は医師になるのは、あきらめる。と、言う、かなり厳しいシステムに、なっていると言うの です。
 日本の医学部は100人くらい入学すると、多少留年しますが、上の学年からも留年してくるので、均して見れば、多少遅れてもだいたいは卒業してい ますので、国情の違いには驚きました。まあ、その分、日本では医学部入学の試験がかなり難しいわけですが、卒業段階の医師のレベルを保持するためには、ド イツ方式も良いかもしれません。
 そこで思い出したのが、私たちの医学生時代の厳しかった第1解剖学の教授でした。
 日本の大学では、医局に入局すると、先輩から、昔の話を聞いたりしながら、臨床のノウハウを様々な方面から学ぶことになりますが、私が習った研究 室の医局の先輩が、学生だったちょうどその時代、ドイツ留学から帰国したばかりの、新進気鋭だったその肉眼解剖学の教授が着任してきたそうです。着任して 来るや否や、突然、解剖学の実習、試験が例年になく厳しくなり、不幸にして、その学年から、一回目の試験では、ほぼ全員落第させられることになったそうで す。
 「き、君たちは・・・、仮にも、医学部の学生たるものが、こんなことも知らないのね?」  「ドイツの学生はもっと勉強するのに、東北大の学生たるものが!?!?」  「ドイツの医学部はもっと厳しいのに、天下の東北大ともあろうものが!・・・じ、実に嘆かわしい」と、まじめで有名なその教授の慨嘆することしきり。
 帰国して教授に着任したばかりで、張り切っておられたこともあったのでしょうが、「ドイツでは」「ドイツでは!」「ドイツでは!」と、いつも二言目には、ドイツと比較して学生を怒るので、ついたあだ名が「ドイツ出羽の神!」
 もちろん、私たちの医学生時代にも、解剖学は医学部最大の難関と言われ、わたしももちろん、グループ全員で、あえなく一回目の試験は玉砕したものでした。
 それでも、さすがに追試験では、二回目ともなりさすがに少しは(かなり!)心を入れ替えて、相当気合いを入れて勉強したので、「今回は、前と全然 違うね!」と、やっとこ、何とか進級をお認め頂けましたが、それでも今回のように、ドイツで基礎医学の段階で三分の一が落第し、医師の道をあきらめる。 と、聴くと・・・、あれで精いっぱい、教授なりに、僕らに優しくしてくれていたんだ。と、20年目にして初めて教授の「優しさ?」を、理解することができ たのでした。
 グローバルスタンダードを考えるとき、何がベストか考えていく必要性があるかもしれません。
更新日時:2010/08/16 23:26:12