2010年12月13日月曜日


新幹線でドクターコール

9月29日、東京の某社本社で会議があるとの由で東京出張。12時26分の「はやてこまち」いつものように、のんびり新幹線に乗り、パワーポイントを準備していると・・・ 「X号車に具合の悪くなりましたお客様がいらっしゃります。お医者様の方は乗ってらっしゃらないでしょうか?」との車内放送。
X号車って・・・もしかして僕の乗ってるこの車輛??・・・えっ?  周りを見渡しても誰も倒れていないようだ。  大丈夫だったのかな?  すると、もう一回同じ車内放送。
 今度は、「・・・お医者様・医療関係者の方は?」と、少し範囲を広げた感じの車内放送になった印象を受けた。しかもかなり切迫感のあるように聞こえる声。乗務員さんがだいぶ困っているように聞こえる・・・  う~ん・・・かなり緊急の事態で、しかも誰も行かなかったのかなあ・・・Vfだったら、三分過ぎているだろうか???かなりまずいかな・・・新幹線ってAEDあったっけ?
 しかたがないので立ち上がり、周りを探すも、やっぱり誰も倒れていないみたい・・・  車内販売員さんに聞いてみると、こちらに・・・と、長椅子のある別の部屋に通される。こんな部屋が新幹線にはあったのね?・・・X号車でX号車だったので、結局私が最初で、やはりまだ誰も医師は来ていないらしい。 車掌さんから、乗車中にふと吐き気がして、吐き出して、左手が動かなくなって紫色になっていますとのお話。ううん、まずいなあ、脳卒中かな?  途中、昔のオーベンの先生も乗車しているのを発見し、二人で拝見させていただこうとするが、なんと、東北新幹線には、血圧計もないらしい。ううん、持ってくればよかったのかな?・・・ブラックジャックじゃあるまいし、救急セットなんて普通は持って歩けないよ・・・
 橈骨動脈を触れてみると、触れるは触れる・・・両手とも血圧はありそう。 呼びかけに反応もある、とりあえず意識はありそうだ。 ただ拍動リズムは典型的な心房細動。絶対性不整脈・・・脈が整っていない。 プルスとしては頻脈ではなく、いま発症した発作性心房細動ではなさそうだ。
 意識はありそうなので、お話を伺うと、朝から左手がむくんでいたとの由。途中で吐き気がして左手が動かなくなった・・・とのお話。脳梗塞 か?・・・TIA??・・・何もないのでボールペンを使ってチェックするも、バビンスキーはなさそう。左手は確かにチアノーゼ、左の握力は全くない・・・ 全然握ってくれない感じ・・やはり麻痺か・・・。ただ、末梢循環としては、左右の橈骨動脈はしっかり触れて左右差はなさそうだ。
既往歴を伺うと、前から心房細動とは言われていて、左目が見えなくなったこともありKO病院神経科?通院中と。ワーファリンも服用しているらしい。ううん左の網膜中心動脈に血栓の既往があるのかもしれない?・・・ やっぱり心房から頭への血栓塞栓症か?・・・  急性期かどうか・・・せめて血圧計が欲しい!
 次の大宮駅まで、あと30分以上あるとの車掌さんの話。ううん早めにCTくらいとってゴールデンタイムで血栓溶解考えた方がいいかな・・・再開通 させるなら、もちろん早ければ早いほどいい・・・車掌さんとお話しすると、宇都宮で途中停車できるかもしれないとのお話。どうしますか?・・・と聞かれ る。  どうしろって、私がこれだけの情報で確定診断して判断しなきゃならないの? ・・・血圧計すらも、なにもないんだよ・・・う~ん・・・。 こういう決断は大変。 乗客の皆様に大迷惑をかけるかもしれない判断をしなければならないのか ・・・商談で急いでいる乗客さんがいたらどうするの? ・・・ビジネスの損害があったら、それも私の責任でしょうか? ・・・ここには聴診器もないのよ!!!
 幸い、そのあたりで、乗客の医療関係の先生方が五人くらい集まってくださってくる。なんとか、一人で決断はしなくて済みそう・・・先生方とも相 談。ここで八戸市民病院救急センターの先生もいらして相談し、やっぱりCTのある病院で早めに処置したほうがベター。との結論。  やはり、心房細動からの血栓塞栓の可能性が高い緊急の脳卒中らしいし、新幹線に宇都宮で停まっていただくことにする。急性期なら血栓溶解が適応になって 完治する可能性も期待できる。宇都宮駅まで救急車が迎えに来るとのお話。ストレッチャーは?・・・ないよね?・・・救急車までは担架で・・・というシステ ムらしい。
 宇都宮の臨時停車をお願いしたとたん、少し左の麻痺が回復してきたようで、弱いながらも私の手を握り返せるようになってきた・・・・心なしか、左 手のチアノーゼも改善傾向に見える。マーフィの法則じゃないけど・・・停車を決めると治ったりするのかな?・・・八戸市民の先生が「背中や胸の疼痛はあり ませんか?」と聞いている・・・そうそう、解離性大動脈瘤のルールアウトはもちろん大事です。私は初診で吐き気と麻痺と聞いたのでしたが、新幹線などで は、カンファレンスしたわけじゃないので、初診の所見が集まった医師の共通認識になっていない。こうなると医師間の情報認識の意思疎通が大変です・・・な どと、思っている間に、嘔吐を始めてしまう。膿盆・・・ないよね?・・・はやり脳圧亢進か?・・・血圧計もないんじゃ・・・挿管セットなんてあるわけない よなあ・・・誤飲しなければいいが・・・
 見捨ててもおられないので、結局、ずっと脈診をしながら付き添うことになる。最初に初診してしまうと立ち去るに立ち去れません。X号車でX号車だったからなあ・・・
 ずいぶん長く感じましたが、なんとか宇都宮に緊急停車。救急車に乗っていくとこの後の予定がきついなあ・・・と思われましたが、容態も安定したのでそのままお任せすることにいたしました・・・。  ふうっ・・・・、出張の肝心な仕事の前に、どおっと疲れました。 集まってくださった五人の先生方。ご苦労様でした。
 ふと気がつくと、私の方は名乗りましたが、考えてみれば、私からも八戸の先生からも、あわただしく病歴ばかり聴き続け、嘔吐で話どころではなく なったので、結局、患者さんのお名前を伺う暇もなく、いったい何処の何方だったのかも聞けませんでしたが、ゴールデンタイムに間に合って回復してくれてい ればいいな・・・
PS) 福島の産婦人科の先生が殺人罪で訴えられ、話題を呼びましたが、最終的に無罪で結審になったようです。手術死と聞いて、一瞬何らかの事故が あったかと思いましたが、驚いたことに、医療的には何一つミスがなかったのに、マスコミの前で見せしめのように逮捕されたとの由。しかも、その存在しない 事件を作りあげた警察署が、逮捕後に表彰されたと聞き、驚いたものです。大阪の医師会が表彰に抗議声明を出したそうですが・・・逮捕を受けて「福島県に一 歩でも入ったら医療行為をしてはいけない」と戒めた医師のブログも散見します。確かに正しい医療行為で逮捕されてはたまりません。  あとでふと気付いたのは、私たち五人が診療していたのは、そのまさしく話題の福島の県内通過中でした。  もちろん、福島県民と言えど、生きる権利はあるわけで、福島県内で医療するな!は暴論でしょうが、正しい医療行為をしても福島では逮捕される可能性があ ると聞けば躊躇するのは事実です。すべての医師が福島県内での医療を拒否したら、表彰した県警には責任はないんでしょうか?  それにまあ、新幹線の車内というのは、いったいどこの管轄になるのでしょうか?・・・そこもよくわかりません・・・ある日突然、警察から問題にされたら 厭じゃないですか。正しい医療行為をしても県警は逮捕をし、逮捕をした警察署が表彰されると聞けば、福島では医療をするなという発想は、まあ医師のセーフ ティネットとして不可避的に発生してしまいます。
 日経メディカル調べでは、ドクターコールに応じる先生は30%前後とのこと。う~ん、私は珍しい方の範囲に入るんですね・・・
 そもそも新幹線や飛行機で呼ばれても、自分が専門にする分野の症例に当たるとは限りません。飛行機の場合では、医師が名乗り出てやむなく医療を行 い、結果として事故があった場合は、日本の航空会社では、何らかの免責処置があると聞きましたが、新幹線はどうなんでしょうか?  車内放送で医師を呼ぶからには、そういう場合の前例について、何らかの広報などのアナウンスがJRから欲しいな。と考えるのは私だけではないと思いま す。
 そうでないと、福島県通過中だけ医療できないというような・・・ブログなどのある意味での暴論に対しても、誰も反論できないと思います。

山家智之
更新日時:2010/12/13 17:33:27
キーワード:[新幹線] [ドクターコール] [車内放送]

2010年12月3日金曜日

日本人工臓器学会の歴史的快挙


日本人工臓器学会の歴史的快挙

 ちょうど第48回の日本人工臓器学会の開催中であった11月19日に、日本で開発された遠心式補助人工心臓、サンメディカルのエバハートと、テルモのデュラハートの製造認可が下りたと言う嬉しいニュースが飛び込んでまいりました。保険収載も予定されているようです。
 48年間にわたる日本人工臓器学会の歴史の上では、「史上最大の業績」であるとも言えると思いますし、足掛け20年にわたる莫大な先行投資が必要 だったにも関わらず、果敢にリスクに立ち向かった両社の企業努力には、実に頭が下がる思いです。両者の長年の努力の結果、11月19日に行われた厚生労働 省 薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会にて正式に承認されました。 まことに、おめでとうございます。
 エバハートとデュラハートの製造許可申請にあたりましては、日本人工臓器学会でも全力で申請に協力し、循環器学会や、胸部外科学会、心臓血管外科 学会などと共同して、人工臓器の理事会としても一丸となって努力を重ねてまいりました。人工臓器に限ってみれば、日本人工臓器学会ほど、人工臓器に詳しい 人たちの集団はありません。あまり知られていませんが、日本人工臓器学会は、例えば欧州人工臓器学会と比べると、ほぼ10倍の会員数を誇る世界最大の人工 臓器の学術集団です。この知見を生かさない手はありません。そこで例えば人工心臓では、どのような基本性能が求められ、どのようなモデル循環における性能 を検査するべきか? 耐久性はどうあるべきか? 抗血栓性はどの基準で検査するべきか? どの段階で動物実験への移行が認められるか? どのような性能を 満たせば、どの段階で臨床応用が学術的倫理的に認められるのか? 臨床試験でどのような成績を収めれば市販が認められるのか? その全てについて、48年 間にわたり、日本人工臓器学会は学術的に研究して参りました。そして、これらの学術的な基準を政府にも提言をして来た訳です。
 ちなみにあまり知られていませんが、日本は心臓移植でも、補助人工心臓の臨床試験でも、世界一の成績を誇っています。多くには大学の心臓外科の若 手の先生方が、一生懸命に術後管理するからでもありますし、人工心臓の基本性能が、やはりモノ作り大国に日本では、優れていると言う側面が上げられます。 ただし、移植では法案が通ってもあまり症例数が多くないので目立ちませんし、埋め込み型の補助人工心臓では治療試験段階では数十例にすぎなかったから全症 例の厳密なフォローが可能であったからと言う側面もあります。例えば、人工心臓の血栓から脳卒中のリスクを考えても、アメリカではCT検査の医療費が高す ぎて検査が出来ません。日本では、圧倒的なまでに安い医療費ですぐ検査が出来ると言う有利な面があります。
 今回の製造認可は、日本の学会全体が一丸となって努力したかなり珍しい例に属すると思われます。
 医学系の学会は何のためにあるのか?
 もちろん、患者さんのためです。 専門医などの認定制度や、医者の名誉のためにあるわけじゃありません。
 日本では、医療機器の申請から認可までが、世界で一番時間がかかり、遅すぎると言うことには定評がありました。これについては厚生労働省だけの問 題ではなく、世界一優秀な日本の医療保険システムを(なんだかんだいって、日本人の平均寿命は独立した国家の観点で見れば世界一です)、整合性を持って運 営するための全体のシステム設計の問題でもあります。医療崩壊が叫ばれる中、新しい医療機器が医療経済を圧迫すれば、地方の医療財政の方へ回る予算が削ら れる側面も避けなくてはなりません。
 ただし、日本では、世界の中で、ただ一国。  埋め込み型補助人工心臓が保険で認められず、実質的に患者に使えない状況が続いていました。末期的な心不全には、人工心臓と心臓移植しか救命の手段はなく、移植はドナーが少ないのは世界的に共通した傾向です。
 つまり、日本だけが埋め込み型補助心臓を使えないので、日本に生まれたばっかりに、他の国では助かるのに死ななければならない患者さんが出てきてしまうと言うことです。
 この問題を解決するのは、人工臓器学会にとって、最優先事項でした。
 そこで、許元理事長、福井前理事長、富永現理事長の元、人工臓器学会の理事全体が他の医学会とも連携を取り、一丸となって企業からの申請への協 力、請願書の署名集め、医学的アドバイスの追加、国との折衝などを通じて、製造認可へ向けた努力を行い、今回の快挙に直結しました。実は医者と言うのは、 互いに連携するのは実に苦手な人種なので、これはかなり珍しい部類の快挙にあたります。
 やれば出来るじゃないか日本!

 東北大学とサンメディカル社は、改良型エバハートの慢性動物実験を進めています。 evaHss.jpg
 動物実験では体外循環を使用しなくても、オンビートで左心室の心尖部からパンチャーを使ってインフローカニューレを挿入可能であり、下行大動脈 に、ゴアテックス製のアウトフローグラフトがポリプロピレン糸を使って、パーシャルクランプで端側吻合されます。手術中、及び術後1病日に不整脈が観測さ れましたが治療に反応して洞調律に復帰し、現在は、覚醒状態で元気に実験を進めています。 ついつい私たち医学研究者は、最新の技術で最良の、ある意味ではかなりオーバースペックの医療機器開発を研究開発してしまいますが、企業化・産業化の現場 では様々な条件の限定条件の下での商品開発を進めなくてはならず、製品化に結びつかなければ、結局は患者さんを助けることができません。 そこで、様々なスペックの医療機器を使って解析を進め、製品としても最善の部類に入る機器開発が必須となります。 待機的にサクリファイした後、病理学的な検索や製品解析を進める予定になっています。
更新日時:2010/12/03 15:48:30
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2010年8月16日月曜日

独逸出羽守


ドイツ出羽の神。

 まあ比較的、人工心臓の研究はちょぴっと珍しいので、時々、見学に来てくださる先生方も、たまにはいらっしゃります。
 少し前、東北大の脳磁図の研究の見学においでになったドイツ人医師の、奥様でもある医学生さんが東北大の人工心臓を見てみたいと希望され、夫妻で 見学にお出でになりました。来ていただいて、びっくりしたのは、奥様はなんと日本人で、ドイツに留学後、むこうで医学部にちゃんと合格してドイツの大学の 医学部に通っているとの由。うちの人工心臓や人工食道、括約筋などを、ご紹介し、施設や教室をご案内しながら、話しがてら向こうのシステムを聞いて、 ちょっと驚きましたが、ドイツの大学の医学部は、600人くらい入学して、その三分の一が基礎医学の段階で、もう三分の一は臨床の段階で落第させられると 言います。つまり、600人のうち、200人だけが卒業し、その他は医師になるのは、あきらめる。と、言う、かなり厳しいシステムに、なっていると言うの です。
 日本の医学部は100人くらい入学すると、多少留年しますが、上の学年からも留年してくるので、均して見れば、多少遅れてもだいたいは卒業してい ますので、国情の違いには驚きました。まあ、その分、日本では医学部入学の試験がかなり難しいわけですが、卒業段階の医師のレベルを保持するためには、ド イツ方式も良いかもしれません。
 そこで思い出したのが、私たちの医学生時代の厳しかった第1解剖学の教授でした。
 日本の大学では、医局に入局すると、先輩から、昔の話を聞いたりしながら、臨床のノウハウを様々な方面から学ぶことになりますが、私が習った研究 室の医局の先輩が、学生だったちょうどその時代、ドイツ留学から帰国したばかりの、新進気鋭だったその肉眼解剖学の教授が着任してきたそうです。着任して 来るや否や、突然、解剖学の実習、試験が例年になく厳しくなり、不幸にして、その学年から、一回目の試験では、ほぼ全員落第させられることになったそうで す。
 「き、君たちは・・・、仮にも、医学部の学生たるものが、こんなことも知らないのね?」  「ドイツの学生はもっと勉強するのに、東北大の学生たるものが!?!?」  「ドイツの医学部はもっと厳しいのに、天下の東北大ともあろうものが!・・・じ、実に嘆かわしい」と、まじめで有名なその教授の慨嘆することしきり。
 帰国して教授に着任したばかりで、張り切っておられたこともあったのでしょうが、「ドイツでは」「ドイツでは!」「ドイツでは!」と、いつも二言目には、ドイツと比較して学生を怒るので、ついたあだ名が「ドイツ出羽の神!」
 もちろん、私たちの医学生時代にも、解剖学は医学部最大の難関と言われ、わたしももちろん、グループ全員で、あえなく一回目の試験は玉砕したものでした。
 それでも、さすがに追試験では、二回目ともなりさすがに少しは(かなり!)心を入れ替えて、相当気合いを入れて勉強したので、「今回は、前と全然 違うね!」と、やっとこ、何とか進級をお認め頂けましたが、それでも今回のように、ドイツで基礎医学の段階で三分の一が落第し、医師の道をあきらめる。 と、聴くと・・・、あれで精いっぱい、教授なりに、僕らに優しくしてくれていたんだ。と、20年目にして初めて教授の「優しさ?」を、理解することができ たのでした。
 グローバルスタンダードを考えるとき、何がベストか考えていく必要性があるかもしれません。
更新日時:2010/08/16 23:26:12

2010年6月11日金曜日

人減は機械である


学都仙台コンソーシアムサテライトキャンパス

東北大学のサテライトキャンパスが開催されます。日本人工臓器学会理事会が共催しています。
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更新日時:2010/06/11 23:01:17
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2010年5月12日水曜日

在宅医療サポートセンター実証


経済産業省 仙台地域における医療・介護のICT資源を組み合わせ活用した「在宅療養サポートセンターサービス」実証事業

 少子高齢化社会の中、わが国では、高齢者で慢性疾患を有する患者在宅療養者については、医療と介護の両面のケアが必要となり、本人はもとより、患者家族の負担は大きい。
 他方、在宅療養を支える医療・介護の各種サービス提供体制では、医療、介護事業者間の連携の不十分さや、在宅療養支援診療所における 24時間 365日対応の負担等により普及が進まないなど、多くの課題を抱えている。加えて、地域の中核病院などでは、経営安定化に向けて、患者の在院日数の短縮化 を進めており、在宅医療の体制整備に係る課題と相まって、今後、在宅を含めた地域全体での患者の受け入れ体制の整備が求められている。
 われわれ当コンソーシアムが実証事業のフィールドとする仙台地域および宮城県、また、東北地方は、以下のような特徴を持っている。
 東北地方は、農山村部が広域にわたり、高齢化が進んだ過疎地域が多いため、充分な医療サービスを受けにくい地域が多く存在する
 医師の偏在が顕著であるとともに、地方中核病院の経営が危機に瀕しており、医療環境がますます悪化しつつある一方、仙台市は東北地方における経済・産業・商業の中心地であり、革新的な技術開発や新規的事業モデルの展開が容易であることから、実証事業に適している
 仙台市には、研究中心大学としての東北大学があり、医学・医工学・情報通信技術に関する高度な先端的研究開発が行われており、その成果の蓄積がある 東北大学はスーパー医療特区として認可されており、大学病院や加齢医学研究所を中心とした先進医療の展開が期待できる
 大都市としての仙台市には、介護サービス事業者もサービスの種類も多く、医療・介護連携のモデルを実証・模索する場として適している
 文部科学省委託事業「広域仙台地域知的クラスター創成事業(第Ⅱ期)」の 2008年度実証調査によれば、仙台地域における在宅療養者(高齢者)が求めるサービスが、すでに判明している。
①在宅療養者の生活を支える見守りは、以下の「安心の 3要素」で構成される。
 日常生活の安定(介護系サービス)
 医療的不安の解消(医療系サービス)
 心の安らぎ(メンタル系サービス)
 
②高付加価値サービスは、在宅療養者の下記特性に合わせ、かつ、「安心の 3要素」を適切に組み合わせたオーダーメイドの総合サービスが重要であると考える。
 サービスに必要性によって(退院直後・慢性期)
 病態によって(疾患名、不自由度)
 世帯によって(独居、高齢者夫妻、一般家庭)
 
そこで、本事業では、医療介護の領域から、一般家庭の生活支援へ向けたシームレスなワンストップサービスを目指す。

山家智之 佐藤美喜子 

更新日時:2010/05/12 18:18:46

2010年4月7日水曜日

ESAO award!


ヨーロッパ人工臓器学会発明賞2009受賞!


 東北大学加齢医学研究所、芝浦工業大学、早稲田大学の研究チームは、欧州人工臓器学会において、欧州人工臓器学会発明賞を受賞しました。
 心不全症例の中には、特に、先天性の心臓疾患をもった症例の場合、左心不全だけではなく、右心不全をきたす場合も多く、静脈性のうっ血などにより 予後が限定される場合も多いことが知られています。そこで、東北大、芝浦工大、早稲田大学の研究チームは、右心循環を補助するための新しい右心補助人工心 筋システムを考案し、動物実験を進めています。
 重症心不全に対す終的救命手段として心臓移植と並んで人工心臓の心象が注目され、本邦でも空気圧駆動型の補助人工心臓の臨床応用が進められていま す。しかしながら人工心臓システムは基本的に血液ポンプシステムであり、血栓形成の危険は免れ得ない側面が残ります。更に、血液ポンプは、必要なないとき でも常に打ち続けなければ血液が滞留してたちまち血栓が形成される危険があります。
 そこで、東北大学では、個々の患者様の収縮障害の部位に応じたオーダメイド加療を具現化する、心臓を外側からアシストするナノテク人工心筋システ ムのシステム開発を進めています。Apexに拡張機能を維持させ、心房の収縮機能を維持させる手術方式により、拡張障害の発生は予防されている計算になっ ています。
ArtMyo.jpg
システムはナノテクを応用した新しい形状記憶合金バイオメタルによる駆動アクチュエータとコントローラ、ナノテク素材による経皮エネルギー伝送ユ ニットから構成されています。血液に接触しないので血栓の発生の危険が存在しません。心不全の病態における収縮性の低下した部位に装着することで全体の心 機能を改善するシステムということになります。システムの埋め込みの解剖学的位置の計算のために、MRI画像を基に、流体科学の数理解析に基づいた数値シ ミュレーションから心室内の流速ベクトル表示の計算を試みています。
MRI.jpg
その結果、各心周期における心室壁の運動の関与が明らかになり、人工心筋装着の方法論に関する有益な情報が得られる結果となっています。臨床応用 に当たってMRI検査を術前に行うことで、人工心筋システムの臨床応用に関する有益な情報を得る方法論が得られたものと考えられます。
更新日時:2010/04/17 18:16:58