2006年2月15日水曜日

人工心臓実験


ロータリーポンプEvaHeart動物実験

心停止下の無拍動左心補助循環 EvaHeart動物実験

Yamazak.jpg 東北大学では、日本中で開発された様々な人工心臓、人工内臓の動物実験が行われており、日本における様々な人工内臓開発におけるセンター的な役割を果たしています。
北海道大学と慶応大学で開発されたバルボポンプや、東京大学で開発された波動ポンプ、早稲田大学で開発されたボルテックスポンプ、東京女子医科大学で開発されたEvaHeartなどの動物実験を行い、臨床への橋渡しを試みています。人工心臓だけでなく、人工括約筋や人工食道のような人工内臓の開発研究も行われています。
最近、無拍動型の補助人工心臓の臨床応用が注目されています。スクリュー型の軸流ポンプや、回転型のロータリーポンプは既に欧米では臨床応用され、症例数を伸ばしています。
日本でも、軸流ポンプとしては、北海道大学と慶応大学が協同でバルボポンプと言うシステム開発を試みていますし、回転型のポンプでもテルモのデュラハートはドイツで臨床応用され、サンメディカルのEvaHeartも国内での臨床試験体制に入りました。この他、東京医科歯科大学、茨城大学、産総研や国立循環器病センターなどでも、様々な無拍動ポンプシステムの開発が進められています。
日本人は欧米人と比べて小柄なのですから、どうしても小型の補助人工心臓が必要です。
こういう細かいものを作らせたら、本来なら日本の独壇場になるはずです。 がんばれニッポン!
補助人工心臓は本来、心臓に悪い方に埋め込まれるのわけですから、補助心臓で全身の循環を維持していても不幸にして致死的な不整脈を合併してしまう患者様も散見されます。 そこで東北大学では心停止下における補助循環の実験を 行ってきました。空気圧駆動型の補助人工心臓では、心停止状態でもある程度は左心補助人工心臓のみで循環が維持できることなどを研究してきました。 現在 は、国産の超小型ロータリーポンプとして注目されエバハートなどを用いて、例え心停止状態においても左心室の補助循環のみで全身の循環が維持できないか研 究を進めています。
現在、エバハートの一例目の臨床例が成功裏に進んでいます。
日本で開発された埋め込み型ロータリーポンプが日本で臨床応用されたのは初めてです。
ROMの皆様も、開発中の人工内臓などのアイデアがありましたら、是非、東北大学との共同研究を進めましょう。東北大学では現在、医工連携や、産学共同研究を力強く進めており、加齢医学研究所は広く門戸を開いて、共同研究の扉を開けてお待ちしています。
更新日時:2006/02/15 15:07:39

2006年2月8日水曜日

smolensk


スモレンスクステートメディカルアカデミーを 答礼訪問してまいりました。

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加齢医学研究所、帯刀所長、本郷事務長の格別のご高配を持ちまして、2003年7月18日に、東北大学加齢医学研究所とスモレンスクステートメディカルアカデミー(SSMA)の学術協定が締結されました。
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調印式での記念写真
協定のために、SSMAからビクターAミラーゲン副学長と、ニコライAファーマシューク副学長、ユーリAコバレフ助教授などが来日されました。
今回は答礼のために、2003年8月29日、加齢医学研究所から仁田新一教授、山家智之助教授、白石泰之博士特別研究員、王慶田COE特別研究員が、空路、SSMAを訪問して参りました。このプロジェクトは競争的研究資金による日露協同動脈硬化研究計画等によるものです。
スモレンスクはモスクワの西約300km、ヨーロッパとモスクワの中間点のような位置にあるスモレンスク大公国の古都で、SSMAはモスクワの西の唯一の医師養成機関、医学研究機関です。
最初に学長室を訪問いたしましたが、学長のプレシコフ教授から歓迎の挨拶があり、SSMAの歴史と伝統のご紹介がありました。
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プレシコフ学長
SSMAは、七つの学部と、約二十カ国から来た約三千人の学生を擁し、約450人の教授、助教授などの教官が在籍する大きな医科大学で、三つの研究 所と、38の専門大学院を保持しているそうです。57の講座と、37のクリニックに、6300のベッドを保持するロシア国内でも有数のベッド数を誇る病院 でもあるそうでスモレンスク地区の基幹的医療機関を構成しています。
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学長室での懇談
その後、お互いの大学の情報交換があり、歓迎の昼食会へ移りました。
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学長室での記念写真
それにしても、昼間からビールウオッカワインの攻勢には驚きました。スモレンスクでは58%の人々が心血管イベントで死亡し、男性の平均寿命が五十 九歳になってしまったそうですが、これは、やはり生活習慣病研究、動脈硬化研究が不可欠な国だなあ。と、認識を新たにしました。
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歓迎昼食会
昼食の後は、日露協同動脈硬化学術会議となり、SSMAのミラーゲン副総長などにより、SSMAにおける動脈硬化研究の進歩、東北大学加齢研から山 家助教授より、日露共同医工学研究の提案などが行われ、日ソ貿易の磯和さんが通訳を手伝ってくださったこともあり、スムーズにディスカッションが行われま した。
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共同研究学術会議
夕刻には、SSMAの厚意で観光案内もセッティングしていただき、スモレンスクの中心、ウスペニアンカテドラルや、ナポレオンを打ち破った古戦場 に、フランス軍を打ち破ったクツゾフ将軍の銅像など、また、交通の要衝にあるがゆえに、民族の往復に伴って常に激戦の地域ならざるを得なかったスモレンス クの市街を守るフォートレスウオールなど、名跡史跡の各所を案内していただきました。
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ウスペニアンカテドラル
ちょっと一日では大忙しで案内していただいた感じで、次回はもっとゆっくり訪問してほしいとのことです。国際ロータリブラッドポンプ学会と、欧州人工臓器学会の日程の関連でロシアでの日程が二日間に限定されたのが残念です。
夕方はもちろん、プレシコフ学長を囲んで歓迎会が行われましたが、これが七時から十二時まで、乾杯の連続で続いたのには疲れました。
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歓迎懇親会
ロシアの風習かも知れませんが、どなたかが歓迎の御挨拶をすると、乾杯と言う感じで、延々と乾杯が繰り返されます。流石にウオッカは勘弁してもらい ましたが、正式にこれでウオッカを一回の挨拶ごとに開けていたら大変なことになってしまいます。ビールワインだけでも十二分にアルコール濃度があがった感 じでしたが、いい加減血中濃度があがったところで、アコーデオン(バンドネオンかな?)にあわせてロシア民謡の合唱が続き、更にメートルが上がったところ で、今度は民族舞踏でいきなり踊らされてふらふらになりました。
アカデミーを挙げて大いに歓迎していただいたのは、痛いほどよくわかりましたが、日本人の代謝能力ではとても追いつけません。
プレシコフ学長のお話では「学長の仕事は、脳は一つでよいが、肝臓は三つ必要だ」と、言うことでしたが、これでは全くその通りですね。
動脈硬化共同研究、フィールド研究のほか、プレシコフ学長のラボからはロシアにしかないと言う?プラズマメスの紹介をスタッフにしていただきましたが、興味深いお話なので幅広い分野でコラボレーションの実が挙がれば。と、願っております。
次回はもう少しお互いのデータが出揃ったところで、学術的な展開を図りながら、もう少しやわらかいドリンクで懇親したいものです。
更新日時:2006/02/06 00:34:41

2006年2月7日火曜日

人工括約筋


人工括約筋! 振興調整費の大型予算獲得に成功!

東北大学の人工括約筋プロジェクトは、文部科学省の大型研究予算、振興調整費に採択されました。億単位の大型予算で、人工括約筋の具現化を目指します。
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人工括約筋山羊
人工肛門の患者様のための、従来は不可能であった排便のコントロールのための具現化する全く新しい人工臓器の開発を目標に精力的な開発研究をすすめます。
研究代表者は、流体科学研究所の羅助手で、加齢医学研究所の劉君、段君がポスドクとして採用されることになり、括約筋の動物実験をサポートすることになりました。
これにあわせて加齢医学研究所の動物実験研究施設を改造し、山羊用の研究ケージに監視用テレビカメラが内蔵され、どこからでも動物実験の管理が可能 になります。最終的には患者様に埋め込まれた後もインターネットセキュリティシステムを駆使した人工臓器のリモート管理を目指しています。
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加齢医学研究所慢性動物実験施設
三年間の研究計画によって括約筋の基本設計をリファインすると同時に、日本人工臓器学会などの学術組織ともタイアップして臨床前試験へ進展させ、具体的な企業化も目指します。
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人工心筋山羊の「ななこちゃん」と、人工肛門山羊の「ももこちゃん」
左から白石博士研究員、伊藤秘書、山家助教授、王博士研究員
現在、既に海外のベンチャー企業からも問い合わせが相次ぎ、日本発の全く新しい人工臓器として発展が期待されます。
更新日時:2006/02/07 14:52:13
キーワード:
参照:[news

スモレンスクステートメディカルアカデミー


加齢医学研究所、スモレンスクステートメディカルアカデミーと 学術協定を締結

保健医療の統計において、大変興味深い現象が進行している地域があります。
ロシアでは、90年代初頭から平均寿命が年々減少していますが、これは戦争がない時期の欧米においては歴史上例がない極めて興味深い現象です。様々 な原因が考えられますが、総人口における約55%が心血管イベントで死亡すると言う統計は重要です。また経済上の問題により高額な医療費が要求される薬物 療法が制限されている要因も大きいものと考えられます。
図にロシアにおける千人あたりの死亡率と出生率を提示します。死亡率が出生率を上回り、人口が減少に転じています。
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図1 ロシアにおける出生率死亡率の年次変化
さて、翻って本邦においても食生活の欧米化に伴い、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患が増加傾向にあります。これらの心血管 イベントの発生は、生命予後を制限するだけでなく、高齢者のQOLを大きく妨げています。更に重要なのは経済的な問題です。国民経済における縮小傾向は、 高齢化社会の到来に伴って近い将来に予測される人口の減少が重要なファクターとなって行く事は容易に予見できます。
この三月に施行された国民医療費の三割負担が、病院医院の外来診療に大きな影響を与えたことは、医療現場の前線で外来に携わる医師の実感です。今回は三割負担でしたが、保健医療が財政を圧迫しつつければ四割五割と進んでいく可能性も否定しきれないものと考えられます。
すなわち、近い将来に、人類史上例がないスピードで人口構成の高齢化が進み、かつ、医療経済の限界が目の前に迫っているというのがわが国の現実です。経済の破綻が医療現場を直撃することは、ロシアの現実が証明しています。
地域によっては、「薬が高いので・・・」という患者からの声が、既に外来の担当医を困惑させ始めています。確かに長期予後に効果のあることがメガス タディにより示唆されている新薬でも、患者さんが経済的に購入できなければどうしようもありません。このような経済問題は、既に現在ロシアで進行している 現象でありますし、今後日本で到来することが予測される現実とも言えるかもしれません。
両国における動脈硬化などに関する保健医療の研究はある意味で愁眉の急とも言えるでしょう。経済学的により生命予後に優れた薬剤インターベンション へ向かわなければ国家経済がそれを負担しきれないことは、今年度の保健医療の改正でも明らかです。より安価な薬剤でより大きな統計学的な効果が望まれてい くのは自明でしょう。そのためには、動脈硬化の長期予後に関する多国間の統計学的研究は不可欠になって行きます。何より、既に現場の患者の声がそれを証明 しています。
そこで、日露協同で動脈硬化研究へ着手しようという発想に至りました。
スモレンスクは、モスクワの西約300kmの中堅都市であり、スモレンスクステートメディカルアカデミーはロシアの西側領域における唯一の医師養成 期間、医学研究機関です。ちょうど帝国大学時代の東北帝国大学医科大学のような存在に当たるとも言えるかもしれません。古くはロシアの前身であるモスクワ 大公国と覇を競ったスモレンスク大公国の首都で、東欧における覇権争いで最終的にはロシアに編入された歴史を持ちます。
スモレンスクもある意味でロシアの現況を典型的に体現する地域で、総死亡に於ける心血管イベントの占める割合は59%を超え、そのほとんどが虚血性 心疾患です。経済学的な限界と高齢化社会を迎える日本にとって極めて興味深い保険医療分野におけるフィールドと言えるかもしれません。
そこで、加齢医学研究所と、スモレンスクステートメディカルアカデミーは、加齢医学研究における国際共同研究体制を確立するべく、学術協定を締結する運びとなりました。
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図2 スモレンスクステートメディカルアカデミーのビクターAミラーゲン副総長と、加齢医学研究所の帯刀益夫所長
2003年7月18日、加齢医学研究所大会議室において、学術協定の調印式が挙行されました。
スモレンスクステートメディカルアカデミーからは、副学長の、ビクターAミラーゲン教授と、同じく研究担当副学長のニコライAファラシューク教授が来日され、加齢医学研究所の帯刀益夫所長とともに調印式が行われました。
調印式の事務手続きに当たって奔走していただいた本郷事務長、丸本庶務掛長に深謝いたします。
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図3 学術協定のサインを行うビクターAミラーゲン副総長と、帯刀益夫所長、調印式を撮影する丸本庶務掛長。
調印式の後、加齢研シンポジウム並びに21世紀COEバイオナノテクノロジー基盤未来医工学のバックアップを得て、日露協同国際医工学シンポジウムが開催され、活発なディスカッションが行われました。
更に翌19日には、仙台市内の第1線の病院医師、開業医などを集めて第1回東北脈波情報研究会が開催され、本邦における最新データとともにロシアの動脈硬化の現状について講演が行われました。
加齢医学研究所とスモレンスクステートメディカルアカデミーは、特にロシアでは主たる死亡要因であり、日本でも最近増加が著しい動脈硬化性疾患にフォーカスを置いて、既に共同研究のプレリミナリースタディを開始しています。
動脈硬化においては様々なパラメータが応用されていますが、最近開発された脈波伝播速度の簡易測定装置は、血圧測定用のマンシェットを巻くだけで極 めて簡便な定量的な測定が具体化するので、急速に開業医から病院までの実地医家に普及し始めています。若干のコミュニケーションギャップが不可避になる国 際共同研究においては再現性のある簡便の方法論がデータ収集に不可欠になります。そこで、小規模なプレリミナリースタディから研究を開始いたしました。
その結果、両国における加齢に伴う動脈硬化進展の様式が有意に異なることがわかり、加齢医学における興味深いデータが次々に得られるようになりました。
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図4 脈波伝播速度の加齢変化の日露比較、ロシア人のほうが動脈硬化の進展が早い。
図に提示するように、日本でもロシアでも、加齢に伴って脈波伝播速度は増加傾向にあります。年齢層別に比較すると、早くも四十代前後には、ロシア人では日本人よりも有意に脈波伝播速度が大きい傾向を提示するようになり、五十代にはこの傾向がますます拡大しています。
すなわち、ロシア人は、日本人に比較して明らかに動脈硬化の進展が早いことが示唆されています。
また、症例数が十分ではないので、数学的解析の段階と言うには限界はありますが、仮に直線回帰を行うと更に興味深い現象も示唆されます。
すなわち、日本人でもロシア人でも直線回帰を行うと、ゼロ軸切片がほぼ一致します。これはすなわち、出生時においては日本人でもロシア人でも、ほぼ 脈波伝播速度が一致すると言う事実を示唆する所見です。これは、誕生したときには日本人もロシア人も差がないのに、成長につれて両民族の差が開いていく現 象を提示していることになります。
両国における加齢医学を追求するのに興味深い基礎データといえるでしょう。
どこで話を聞いたのか、ロシアのテレビ局、TVCが、この日露協同の脈波伝播速度を用いた動脈硬化研究のプロジェクトの取材に参りました。
TVCのキャスターさんが、日本で開発された独自の脈波伝播速度計測装置で、動脈硬化の進展について自ら被験者になって取材していかれました。
このキャスターさんは、ロシア人にしては意外と動脈硬化は進んではいなかったようですが、日本人に比べてロシア人の動脈硬化の進展が早いと言う我々の研究結果は、ロシアの視聴者にとってはたいへんショッキングであるとコメントして行かれました。
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図5 ロシアのテレビ局、TVCによる日露国際共同研究の取材、脈波伝播速度を計測されているのはキャスターのネカニエフAアレクシービッチ氏
このように脈波伝播速度によって計測される動脈硬化の変化においてもたいへん興味深い現象が観察されています。
この研究は民間との共同による産学共同研究によるもので、昨年採択された東北大学の21世紀COE:バイオナノテクノロジー基盤未来医工学では、医学工学協同によるこのような産学協同や、国際共同研究を積極的に推進しています。
現在、更にこのような新しい方法論から新しい診断法の開発へ結びつけるべく研究が進められており、加齢医学研究所には新しく産学協同研究のための寄付部門が設置されました。
今後更に幅広い分野で、国際学術協定を生かす形で更に積極的に共同研究を推進し、両国における加齢医学の発展に大きく貢献していきたいと考えています。
更新日時:2006/02/07 15:32:05
キーワード:
参照:[news] [PWV : Pulse Wave Velocity

2006年2月6日月曜日


Project Artificial Myocardium

ナノテク集積型人工心筋動物実験に成功!

厚生労働科学研究費補助金萌芽的先端医療技術推進研究事業 ナノテク集積型埋め込み式心室補助装置(H14-ナノ-020)
NEHfigJPG.jpg 東北大学では、厚生労働科学研究費補助金萌芽的先端医療技術推進研究事業のサポートを受けて、ナノテク集積型の全く新しい補助循環装置、「人工心筋」の研究開発に取り組んでおります。
ナノセンサで生体の情報をキャッチし、ナノマイクロ制御チップで生体の需要を素早く計算し、人工心筋で弱った心臓の収縮を強力にサポートします。
人工心臓のようにいつもフル稼働している必要はなく、必要な時だけ動けばよいので、耐久性に大きく優れ、更に血液に直接接触しないので、血栓形成の危険もなく、人工弁の必要もないので、経済性にも優れます。

アイデアは良かったのですが、いざ現実にシステムを組んで動物実験を開始すると、モータは壊れる、山羊は出血する、胸腔は狭い、センサが入らない、麻酔でショック、解剖学的装着困難など、非常に困難が山積みでした。
現実にはアイデアだけではなかなか実験は進みません。
幸い今年度より厚生労働省よりのサポートが受けられることになり、年末まで苦心惨憺しながら動物実験を行って参りましたが、カップ方式でもバンド方式でも、心補助効果を出すのがなかなか困難でした。
昨年末に行われた最終実験で漸く、エレクトロハイドローリック方式に方式を変更して両心室補助が可能になる実験結果が得られました。
心拍出量で16%の上昇、動脈圧で10%の上昇、肺動脈圧で28%の上昇が確認されました。動物実験の段階では、心補助効果がほぼ確認できたと考えます。
更に現在、ナノセンサ開発、マイクロナノ制御チップ開発、制御アルゴリズム開発、経皮エネルギー伝送システム開発、臨床的な左室収縮による流体解析等、各チームで要素技術を確立していただくべく研究が進んでいます。
今後、更に動物実験を重ね、手術手技も簡略化し、結果もリファインして研究成果中間報告会へ望む手はずになっております。
現在、東北大学を初め全国のナノテク研究者、人工臓器研究者の英知を傾けて開発に取り組んでいます。

厚生労働科学研究費補助金萌芽的先端医療技術推進研究事業 ナノテク集積型埋め込み式心室補助装置(H14-ナノ-020)

ナノセンサ開発
江刺正喜、芳賀洋一、高木敏行、羅雲
人工心筋アクチュエータ開発
白石泰之、岡本英治、圓山重直、梅津光生
ナノマイクロチップ制御システム開発
吉澤誠、田中明、
経皮エネルギー伝送システム
松木英敏、佐藤文博
人工心筋動物実験
仁田新一、田林晄一、西條芳文、山家智之
左室収縮動態解析・流体解析
福田寛、早瀬敏幸、川野聡恭、飯島俊彦
自律神経情報による駆動制御
久保豊、大坂元久、南家俊介
企業化へのアプローチ
山内清、佐伯昭雄、井本頓智、紺野能史、
研究代表者:山家智之
更新日時:2006/02/06 00:39:50
キーワード:
参照:[ナノテク応用型人工臓器の開発と臨床応用に関する研究] [news

2006年2月5日日曜日

Med Trib


ダメな国=日本:日本の人工臓器の開発はなぜ進まないか?

日本はなぜこんなダメな国になったのか?
それを改善するにはどうすればいいのか?ー人工臓器をフィールドにこの問題をディスカッションする。
80年代の一時期、全世界に先駆けて日本の補助人工心臓は製造認可を得、盛大な勢いを見せた時期が合った。ところがその後、医療機器産業のうち診断 機器の開発については本邦も順調な発展を見せているが,治療機器,なかでも体内埋め込み型医療機器の開発は,欧米に比べて著しく立ち遅れている。
仙台市で開かれた第41回日本人工臓器学会は、この問題に注目し、対策について活発なディスカッションが行われた。
シンポジウム「人工臓器の開発,動物実験・臨床前試験・臨床治療試験はどうあるべきか? 日本人工臓器学会の役割」(司会=埼玉医科大学心臓血管外 科・許俊鋭教授,東北大学加齢医学研究所・山家智之助教授) では,人工臓器をはじめとするわが国の医療機器産業の現状と課題について討議された。

貿易収支において増大し続ける治療機器の輸入超過

厚生労働省による統計によれば、近年の医療用具の貿易収支で治療関連機器の輸入超過額は増加の一途をたどっている。わが国の治療関連医療機器開発の立ち遅れの原因はどこにあるのか?
例えば代表的な埋め込み型人工臓器である完全置換型人工心臓や補助人工心臓(VAS)を例として考えた場合、開発研究や動物実験のレベルでは,欧米 に比べて著しく遅れているわけではないという。多くの医師や患者は実用化を望んでいるにもかかわらず何故か日本発の新医療用具が臨床応用されない。
この問題に関して、司会の山家助教授から開発者の立場からのセッションの進行が行われ、日本を代表する人工臓器研究開発施設から臨床へ展開する際の 人工臓器学会への役割について討論が進められた。更に司会の許教授からは、臨床応用の立場からの提言が行われ、人工臓器の臨床試験が遅々として進まないこ とを指摘した。治験が進まない要因として,①医薬品と比較して,医療機器産業では事業規模が比較的小さい企業が多く,大規模臨床試験を遂行するための十分 な人的資材,経済的基盤が整わない ②医療機器に対応した独自の臨床試験のルールやガイドラインが未整備で,医薬品と同様の大規模試験が要求される ③プ ラセボ効果の排除のためのランダム化割り付け試験が医療機器では困難,もしくは不可能であり,多くの医療機器ではその必要性がないにもかかわらず,医薬品 と同様に求められる-ことを挙げた。

ビジネスとしての成立は困難

VASの製造メーカーは,実際にVASの開発に当たった企業側から見た問題点として,開発に必要な時間の長さと予想の難しさ,開発費の回収手段の難しさ,保険適用の可否の見込みリスクなど,現状では新規医療用具の開発はリスクが高いと指摘した。
さらに,VASの開発をスタートするに当たっては,調査を実施してビジネスが成立するとの予想はあったが,実際には見込み違いや誤算により,結果的 に採算の合うビジネスにはならなかったと述べた。その理由として,①市場規模の誤算②治験症例数や期間など③保険適用時期の誤認-を挙げた。
たとえば、心臓血管外科手術における手技,機器,薬剤の進歩で成績が向上し、開発開始当初,手術例の10%と予想されていたVASの対象例数が10 分の1となった。さらに経皮的循環補助(PCPS)など,代用法の発達の影響も大きい。VASの保険適用価格が予想より低く,さらに症例数も少なくなった ことから,開発費の回収が不可能となった。②については,症例数の少ない医療機器でも正規の治験数が必要で,研究臨床に3年,臨床試験に4年を要し,費用 が増大化した。③については,製造認可と同時に保険適用となると考えていたが,4年間にわたり保険が適用されなかった。
また,混合診療の禁止により,すべでの医療行為が保険適用外となり,患者負担での適用はほぼ皆無であった。
さらに製造認可の取得と同時に高度先進医療に適用されたものの,5例の実施例がなければ対象とならず,患者負担で症例数を伸ばすことができず適用施 設を増やせなかったことなどから,「現状では新規医療用具の開発はリスクが大きく,企業にとってはビジネスとして扱いにくい」との意見があった。

新しい臨床試験実施基準づくりに学会が積極的に関与

こうした医療機器産業が抱える諸問題への取り組みとじて,現在,日本人工臓器学会では,内閣府および厚生労働省に対して「臨床治験の推進」を提言するとともに,産業界に対しても臨床試験に関する実務面でのサポートか必要と考えている。
具体的には,臨床試験・臨床評価のガイドラインの作成,埋め込み型VAS施設認定基準に関する提案などほか,産業界に向けた臨床試験の実務的サポー トを担う。また,単独では治験審査委員会を持つことが困難な小規模施設でも医療機器の臨床試験が実施できるよう,人工臓器学会治験審査委員会(ARB)の 設立構想などが進められている。これらを通じて日本人工臓器学会では,平成17年度に施行が予定されている医療機器のための新しい臨床試験実施基準づくり に学会員が積極的に発言し,また,前臨床試験のルールづくりなど医師主導の治験の在り方を巡って積極的に関与してきた。
人工臓器学会理事長の許教授は「産業立国であるわが国の将来にとって,医療機器産業の育成は必須条件であることの認識が希薄だ。移植医療と同様;わ が国の医療はわが国のリスクと責任で推進するとの基本的認識の確立が急務である」と述べ,メデイアや国民に強力なサポートを要請していくことの重要性を訴 えた。

学会主導で早急な社会基盤整備を

経済原理のもとでの人工臓器の研究開発は,米国を中心にし烈化している。これに対し,基礎研究が中心で産業界とのつながりが不十分であり,治験体制に未整備な部分を抱えるわが国の現状では,日米の格差は広がるばかりである。
さらに,基礎開発研究の分野では,いわゆるボストゲノミクスの基礎研究を発展応用した先端医療の登場により,従来の 治療概念は根底から覆り,変革 されつつある。大阪大学大学院臓器制御外科の澤芳樹講師は,こうした変革に対応するために,高いレベルの基礎研究を基盤に,研究者のための研究ではなく, 経済性や産業化の可能性を視野に入れた開発が必要だと指摘した。  
わが国の人工臓器研究開発における臨床試験を優先的に推進するためには①国際競争力に優れた国産人工臓器への臨床試験用経費も盛り込んだ集中的大規 模予算の投入②大企 業等産業界の積極的参入の援助③新規医療用具に対する厚生労働省の迅速審査④混合診療の認可などの保健診療制度改革による臨床試験経 費の軽減-などの社会基盤整備が重要で ある。また,そのための課題として,①機器の臨床評価の科学的根拠 ②医療機器の特性に配慮した具体的な基準によ る整備研究開発の価値評価 ③製品化に向けでの周辺企業の支援④リスクや費用などの医療経済学上の評価⑤リスクとリターンにかかわる適切で的確な議論-が 必要である。同講師は,こうした課題を踏まえたうえで「医療機器開発にかかわる自主的ガイドラインを作成し,日本人工臓器学会が指導的立場に立ち,早急な 社会基盤整備と先端的人工臓器開発を積極的に図れば好循環が生まれうる」と述べた。

改正薬事法の大きな変更点に

一方,厚生労働省では,現在,薬事制度の見直しを進めている。同省医薬品医療機器審査センターの木下勝美氏は,「今回の薬事法改正のなかで,最も大きな変更点が医療機器 に関する見直しである」と述べた。
同省では今回の制度改正のなかで,医療機器の進化に伴う構造の複雑化とともに,医薬品以上に多様な技術や素材が用いられている特性に対応して,医療 機器にかかわる安全 対策を講じるため,臨床試験実施基準(GCP)や非臨床試験実施基準(GLP)など,これまで十分に法制化が進められてこなかった部 分について,医薬品と同様にルールを整備するとしている。 
また,医療機器をそのリスクの度合いによってクラス分けし,多種多様な機器のおのおののリスクに対応した合理的な規制の構築を目指している。
なお,認証機関についても,平成17年度からは,リスクの低い医療機器に対しては第三者認証制度が開始予定とされている。来年度から(財)医療機器 センター,(認)医薬品機構が廃止され,国立医薬品食品衛生研究所の医薬品医療機器審査センターと統合され,新たに医薬品等にかかわる研究開発業務,医薬 品調査等業務,および救済給付業務を行う独立行政法人が設置されることが決まっている。この法人は今後,医療機器安全対策の中核的役割を担うことになる が,工学系の審査官も含めて審査官の増員が予定されており,これまで問題となっていた審査官の員数が改善され,医療機器の承認審査体制の充実強化が図られ る見通しとなっている。 
さらに,新たな承認審査制度では国際的整合性の取れた審査体制が構築される予定で,医療機器規制の国際整合化会議(GHTF)での合意基準のほか,国際標準化機構(ISO),国 際電気標準会議(IEC)についても積極的な取り入れが図られる予定である。
同氏は「今回の薬事制度の見直しによって,現審査制度が抱えている問題が解消され,わが国の医療機器産業の発展につながることが期待される」と述べた。
(Medical Tribune誌より一部改変)
更新日時:2006/02/05 21:42:54