2006年7月15日土曜日


第4回東北脈波情報研究会

  • 日時: 平成18年7月15日(土) 15:00 - 19:00
  • 場所: ホテル仙台プラザ

プログラム

開催挨拶

  • 東北大学 大学院医学系研究所 教授 伊藤 貞嘉 先生

「動脈公開のスティフネス評価のあり方と CAVI」

  • 高田 正信 先生 (富山逓信病院 院長)
    • 座長: 東北大学 情報シナジーセンター 教授 吉澤 誠 先生

「慢性腎不全患者における CAVI の検討」

  • 鈴木 昌幸 先生 (山形県立中央病院)
    • 座長: 東北労災病院 勤労者予防医療センター 宗像 正徳 先生
(休憩)

「高血圧患者における CAVI の有用性」

  • 大蔵 隆文 先生 (愛媛大学 医学部第二内科 助教授)
    • 座長: 東北大学 加齢医学研究所 助教授 西條 芳文 先生

パネルディスカッション「メタボリックシンドロームと脈波診断の臨床」

  • 阿部 高明 先生 (東北大学 第二内科)
  • 鈴木 賢二 先生 (日本労働文化協会)
  • 正田 孝明 先生 (愛媛大学 医学部)
  • 松尾 兼幸 先生 (松尾けんこうクリニック)
  • 高田 正信 先生 (富山逓信病院)
  • 鈴木 昌幸 先生 (山形県立中央病院)
  • 大蔵 隆文 先生 (愛媛大学 医学部第二内科 助教授)
    • 座長: 東北大学 加齢医学研究所 教授 山家 智之 先生

閉会挨拶

  • 東北大学 加齢医学研究所 教授 仁田 新一 先生

18:00 よりホテル仙台プラザ 15F「メイプル」で意見交換会を予定しております.
東北脈波情報研究会
代表世話人 伊藤 貞嘉 / 代表世話人 山家 智之 / 代表世話人 仁田 新一
共済
東北脈波情報研究会,フクダ電子株式会社,ファイザー株式会社

2006年7月9日日曜日

人工循環制御


人工循環制御アルゴリズム開発

  • 医薬品機構基礎推進事業研究プロジェクト
    • 加齢医学研究所病態計測制御分野
    • 情報シナジーセンタ先端情報技術
    • 大学院工学研究科システム制御

NEHfigJPG.jpg 人工心臓は今ではただ生命を維持するだけに用いられた時代は過ぎて、現在は患者様のQOLを目標の一つにあげなくてはならない時代に入りかけてい る。全身の循環を維持できても、患者様が何か行動を起こすたびに流量の不足から心不全症状をきたすようではQOLを問う段階にはないことになる。NYHA 分類を考えるまでもなく、軽度の労作で心不全発作をきたすようでは、患者様は重症心不全段階から軽症心不全段階に移行しただけで、完治には程遠い。
ペースメーカの歴史を振り返れば、初めはただ不整脈の発作時に心停止を予防する機能のみが求められていたが、現在は患者様の活動に合わせて心拍数を 増減させる機能を保持するものが求められている。人工心臓も、生命維持という目標がクリアできれば当然ながら次の段階が求められる。すなわち、患者様の動 きに応じた人工心臓制御が必要になる。
特に無拍動型の人工心臓ではこの問題は重要になる。
人間の血圧反射システムは、圧受容体において血圧の立ち上がりの時期に発火したシグナルが中枢機構に伝達されて制御システムが稼動することが知られ ている。しかしながら、無拍動の人工循環では、この立ち上がり部分が存在しないので制御機構が稼動することができない。そこで、無拍動循環では人工心臓側 で制御機構を完備させる必要がある。
東北大学では、以前から人工心臓自動制御機構の開発に従事してきた。空気圧駆動型補助人工心臓制御システムでは、世界で始めて最適動作点知的制御アルゴリズムの導入に成功している。
そこで、条件が最も厳しい完全無拍動両心循環の自動制御アルゴリズム開発に着手した。
世界で初めてロータリーポンプによる無拍動循環制御に成功することができた。
rpfelex.jpg
図に示すように全く脈がない循環で、血圧の変化の情報に伴って回転数を追従制御させることができるシステムは、世界でも初めてのものである。

Future perspective

様々な人工心臓に応用できる汎用性の高いシステムの開発を目指しており、欧米で開発されるあらゆる人工心臓にも導入可能なアルゴリズム開発により、商品化を目指している。
更に自律神経情報を駆使した新しい人工心臓制御にも挑戦しているが、このような方向性のアプローチは世界に類がない。
更新日時:2006/04/09 21:05:07
キーワード:
参照:[ナノテク応用型人工臓器の開発と臨床応用に関する研究

2006年4月24日月曜日

人体の脈の波形がカオス的なダイナミクスを呈する理由


血圧の脈波がカオスになる原因

心拍変動や血圧の時系列変動曲線にカオス的なダイナミクスが存在することは指摘されて久しい。
lorenz.jpg カオス的なダイナミクスは低自由度の非線形システムに発生する数学的な概念であるが、数多い制御系が関与する心臓血管系に置けるダイナミクスに発生するカオスの成因は明らかにされているとは言い難い。
そこで東北大学では血圧制御系に注目してシミュレーション実験を試みた。
ウインドケッセルモデルを用いた左心循環系の電気回路モデルに、Cavalcantiらのシミュレーション回路を元に血圧反射のフィードバック系を加えた。
ida3.jpg フィードバック回路には人間の統計データを元に相互の相関に非線形性を加えた。
その結果、血圧反射のフィードバック回路の時間遅れが短い時には時系列は一定の値に収束し、古典的なホメオスタシスを示唆する結果となったが、時間遅れを大きくすると発振から分岐を来してカオス的なダイナミクスの発生が認められた。
この結果を基に動物実験を行った。
健康な山羊を用いて麻酔下に左開胸して人工心臓の埋め込みを行った。
麻酔から覚めた後、自動制御システムを用いて人工心臓の最適動作点制御、左右バランス制御を行ったが、時系列は一定に値に収束する定値制御系となった。
より生理的な制御を目指して、これらのベーシック制御に加えて血圧反射制御を試みたところ、カオス的なダイナミクスの発生が観察された。
従って数理解析電気回路モデルでも動物実験でも、血圧反射系がカオスを発生させている現象が観察されたことになる。
現在更に研究を進めて、ロータリーポンプによる完全無拍動循環でも、血圧反射によってゆらぎが発生することを確認している。
血圧の脈波にカオス性が存在する原因は、血圧反射に求められる可能性があることを直接的に証明する実験結果であるものと思われた。

左室収縮の時系列曲線のカオス解析


左室収縮のカオス解析による自律神経機能診断

新エネルギー産業技術総合開発機構研究プロジェクト

臨床の現場で、糖尿病等における自律神経障害や、脳神経疾患などにおける神経機能障害の定量的診断法の一環として心拍変動のスペクトル解析が汎用さ れている1,2)。しかしながらelectromechanical dissociationの問題を持ち出すまでもなく、実際の心臓の収縮と、心電図の時系列は、完全に一致するわけではない。
心拍変動は、交感神経系、副交感神経系等の自律神経の支配により影響を受けていることが薬理学的な除神経による多くの研究などにより報告されている 2-4)。また、これら神経性の因子の影響等の他に、液性因子の関与の可能性も報告されている1-3)。更に洞結節は前負荷や後負荷の影響にも依存するの で、心拍変動は多くの因子の相互作用により決定されるものである1-6)。
また心拍変動とは独立に、末梢血管抵抗の時系列曲線にもゆらぎが観察されることが報告されており6-8)、これらの抵抗値のゆらぎは、動脈圧反射系 を介して中枢にも影響を与え、ひいては心拍変動のゆらぎにも影響している。特に 0.1 Hz前後に認められる周期性ゆらぎ成分は、この動脈圧反射系に依存している可能性が報告されている4-8)。前負荷及び後負荷の影響は、機械的に洞結節に 影響を与えるものなので、心臓の収縮動態を画像として解析することにより、より精密な計測が具現化する可能性が高い。
心臓の収縮動態の画像的な診断法としては、心臓カテーテル検査や核医学的な検査、超音波心臓診断法などがあげられる。この中で長時間の心臓の収縮動 態の解析が一般病院レベルで可能なのは、超音波を用いる手法だけである。しかしながら心臓の断面図から左室内の容量をリアルタイムで解析することは多くの 困難を伴う。
本研究では最近開発された心内膜自動解析プログラム Acoustic Quantification (AQ) 法を用い、左室の容量をリアルタイムで計測することにより、左室の収縮のゆらぎを直接計測し、循環動態のゆらぎの新しい診断法を開発することを目的として いる。

方法

この研究に用いたのはHulett-Packard 社のSonos 2500である。この装置に、AQ法による左室内容量が、時系列曲線としてリアルタイムに出力ができるように改造を加え、実験に用いた。
AQPh.jpg
バックスキャッターの違いから左心室の内膜を認識し、左室の容量を計算するシステムである。心電図と左室容量の時系列曲線をデータレコーダに同時記 録した。得られた時系列曲線はADコンバータを介してパーソナルコンピュータに入力し、高速フーリエ変換(FFT)を用いスペクトル解析を試みた。FFT で処理する前に、時系列曲線を心拍単位のRR間隔と、左室の一回拍出量に変換した。得られたデータは、点時系列データを事象間隔系列として取り扱う方法で 処理した。すなわち拍数単位の点時系列データを事象間隔系列の連続時系列曲線に変換した後、平均RR間隔でサンプリングした。

結果及び考察

スペクトル解析結果を観測すると、従来の報告と同様に心拍変動のパワースペクトルには、0.1 Hz前後の周波数領域と、0.3 Hz 前後の周波数領域に明確なピークが認められ、周期性のゆらぎ成分の存在が示唆されていた。これに対して左室の一回拍出量の時系列曲線には、0.1Hz前後 と0.3 Hzの周波数領域に同様のピークが認められ、心拍変動の影響が示唆されていた。
心拍変動と一回拍出量のピークの存在の線形性について検討するために、関連度関数の手法を用いてコヒーレンシーを計算したところ、周期性のゆらぎ成 分の存在した0.1 Hz 前後と0.3Hz前後には高い線形性が認められていた。従って左室の一回拍出量は心拍変動と同様の周期性のゆらぎ成分を持つことになるが、左室の一回拍出 量のスペクトルでは呼吸性の周期性変動が非常に強い。これは呼吸性の左房圧の変動が強く影響している可能性もある。0.1Hz前後の周期性変動は血管抵抗 の変化による後負荷の影響に依存していることが考えられるが、この変化は圧受容体反射を介して中枢にも影響しているので、心拍変動にも影響していることに なり、両方の変化の反映を示しているものと考えられた。
一回拍出量が直接計算されているので心拍変動のスペクトル解析結果や動脈圧のスペクトル解析と併せて考察を続けることにより、心臓と血管系のゆらぎ成分を独立に観察しうる可能性もあり、今後とも検討を続けていきたい。 
MIattrax.jpg
循環動態のゆらぎにおいては本研究で検討したような周期性のゆらぎだけではなく、カオス的なダイナミクスに依存すると思われるフラクタル的な時系列 も重要である4,9,10,11)。 図に提示するのは、正常対象者と心筋梗塞患者の左室収縮のアトラクタである。明らかに非線形力学的に違った挙動を呈 している。
このようなアプローチは全く新しいカオス理論により診断法の開発に結びつく者であり、今後とも検討を要する課題である。

文献

  1. Hyndman BW, Kybernelik RI. Spontaneous rhythms in physiologic control system. Nature 233: 339-341, 1971.
  2. Pomeranz B, Macaulay RJB, Caudill MA, Kutz I, Adam D, Gordon D, Barger AC, Shannon DC, Cohen RJ, Benson H. Assessment of autonomic function in man by heart rate spectral analysis. Am J Physiol 248: H151-153, 1985.
  3. Akselrod S, Gordon D, Madwed JB, Snidman NC, Shannon DC, Cohen RJ. Hemodynamic regulation by spectral analysis. Am J Physiol 249: 867-875., 1985.
  4. Yamamoto Y, Hughson RL: On the fractal nature of heart rate variability in humans: effects of data length and beta adrenergic blockade. Am J Physiol 266: R40-49, 1994.
  5. Yambe T, Nitta S, Katahira Y, Sonobe T, Naganuma S, Kakinuma Y, Kobayashi S, Tanaka M, Fukuju T, Miura M, Mohri H, Yoshizawa M, Koide S, Takeda H. New artificial heart control method from the neurophysiological point of view. Akutsu T, Koyanagi H, eds, Artificial Heart 4, Springer-Verlag, Tokyo, 353-356, 1993.
  6. Yambe T, Nitta S, Sonobe T, Naganuma S, Kakinuma Y, Kobayashi S, Nanka S, Ohsawa N, Akiho H,Tanaka M, Fukuju T, Miura M, Uchida N, Sato N, Mohri H, Koide S, Abe K, Takeda H, Yoshizawa M. Origin of the rhythmical fluctuations in the animal without natural heartbeat. Artif Organs 17: 1017-1021, 1993.
  7. 山家智之、仁田新一、永沼滋、柿沼義人、小林信一、南家俊介、福寿岳雄、佐藤尚、吉沢誠、小出訓、阿部健一、自然心臓を除いた循環系にゆらぎは存在するか?自律神経 30: 370-373, 1993.
  8. Yambe T, Nitta S, Sonobe T, Naganuma S, Kaknuma Y, Kobayashi S, Tanaka M, Fukuju T, Miura M, Sato N, Mohri H, Koide S, Tamura K, Yoshizawa M, Takeda H. Is there any fluctuation in the hemodynamic parameters in an animal without natural heartbeat? Artif Organs Today 3; 93, 1993
  9. Mandelbrot BB: The fractal geometry of nature. Freeman WH and Company, New York, 1977
  10. Yambe T, Nitta S, Sonobe T, Naganuma S, Kaknuma Y, Kobayashi S, Tanaka M, Fukuju T, Miura M, Sato N, Mohri H, Koide S, Takeda H, Yoshizawa M, Kasai T, and Hashimoto H; Chaotic hemodynamics during oscillaed blood flow. Artif Organs 18; 633, 1994
  11. 山家智之、仁田新一、薗部太郎、永沼滋、柿沼義人、井筒憲司、小林信一、南下俊介、大沢上、田中元直、吉澤誠、小出訓、阿部健一、高安美佐子、高 安秀樹、阿部祐輔、鎮西恒雄、井街宏. 生体にゆらぎは必要か? - 人工心臓による検討. 第8回生理生体工学シンポジウム論文集:81-86, 1993.
更新日時:2006/04/10 18:22:56
キーワード:
参照:[循環器疾患に関するメディカルインフォーマティクス] [現在の研究テーマ

2006年4月10日月曜日


移植心臓の保存に関する実験的研究

文部科学省科学研究費

AftTX.jpg 東北大学は心臓移植認定施設に選ばれようとしている段階です。
そこで、東北大学では、心臓血管外科の井口篤志助教授を中心に心臓移植プロジェクトチームを結成し、様々な研究費のサポートも受けつつ、大型動物を駆使した動物実験を精力的に展開しています。
加齢医学研究所・病態計測制御分野では、心機能計測の立場から実験の展開をサポートしています。
図にコンダクタンスカテーテルを使ったEmax計測の一例を提示いたします。
現在、更に大学院工学研究科、情報シナジーセンターのサポートを受けて、より洗練された心機能解析の方法論開発を積極的に展開しています。
更新日時:2006/04/10 00:49:56
キーワード:
参照:[循環器疾患に関するメディカルインフォーマティクス] [現在の研究テーマ

数理モデル解析


医学研究におけるモデルの役割

1. 研究開発におけるプロトコール

model1.jpg 大学においても研究所においても動物実験を施行することは益々困難になりつつあり、「動物実験を行うくらいなら、人間の臨床試験の方がよほど簡単だ!」などと言う冗談まで囁かれる程である。
勿論、動物実験は患者さんに応用する前に行われるものであり、治療効果を判定することは勿論、それ以前に、薬剤・医療機器の安全性・有効性などをチェックするために不可欠なものである。
例えば薬剤などの開発研究・臨床試験では、まず、薬剤として応用できそうな候補物質の選定から始まる。カビを眺めながらペニシリンが発見されたりす るような画期的でエポックメイキングな発見がなされることは流石に少なくなってきているが、それでも一部地域の土壌から発見された微生物の代謝産物から新 しい抗菌薬や、免疫製剤が発見されることは少なくない。日本の薬剤メーカは一般に独創性に欠け、新たに開発される薬剤は少なく、欧米からの輸入が多いなど と囁かれて来たが、例えば高脂血症の治療薬などは日本で世界に先駆けて開発され、日本の開発力も見直されてきている。(1-6)
基礎研究として、これら多くの候補物質の物理的・化学的な性質が調べられた後、薬剤としての有効性を持つ可能性がある候補物質が定まれば、動物実験が開始され、安全性や有効性が検討されることになる。

2. 動物実験モデルの持つ問題

title.jpg この際、重要なポイントになるのは、候補物質の作用を確かめるために作成される疾患の動物実験モデルである。例えば抗生物質であれば、感染症のモデ ルがin vivo, in vitroで必要になる。培養で菌の増殖が抑えられればある程度抗生物質としての作用は証明できるが、生体に投与した場合の安全性はまた全く別の問題であ る。更に生体に投与した場合、感染症を起こしている組織への移行も問われることは自明である。従ってこの二つの問題だけでも動物実験モデルの存在は不可避 になる。
しかしながら、動物も草食・肉食・雑食と種類によって解剖学的に構造そのものが異なるだけでなく、全く代謝系も異なり、人体のモデルとしては必ずし も的確でないことも多い。例えば日本で開発されたある高脂血症の薬剤は、動物実験では当初全く効果が認められず、開発が断念されかけたこともあった。しか しながら、その後、実験動物を変更したところ、著明な薬効が確認され、最終的に臨床試験でも従来にない画期的な薬剤であることが確認され、市場を席巻する に至った。
筆者らも販売された当初の循環器科の現場で日本からこれほど画期的な薬剤が開発されたことに驚愕した歴史を記憶している。それまではコレステロール の薬と言えば、何種類飲ませても、下がるんだか下がらないんだか・・といった状況が、「こんなに下がって大丈夫か?」という状況へ一変したのである。実際 この危惧も必ずしも根拠がないわけではないことも後に述べる。
更に重要なことは、作成した動物実験モデルが、人間の病気の精密なシミュレーションになっているかどうかである。例えば心筋梗塞モデルを考えてみれ ば、病気の原因は、冠動脈の動脈硬化性病変が進行して血管が閉塞してしまうことであると報告されている。そこで、動物実験では動物の心臓を露出して冠動脈 を結搾したりして、心筋梗塞のモデルや虚血性心不全のモデルを作成する(7,8)。
しかしながら、健康な動物の冠動脈を急速に縛り付けたモデルは、当然のことながら実際の人間の心筋梗塞とは異なる。
何回か狭心症発作の前兆を自覚していながら、忙しさにかまけているうちに、不安定狭心症の段階から、本格的な心筋梗塞へ至って救急車で来院する患者 さんも多い。この場合、もう少し早く来てくれれば・・・という、思いはあるが、最近の研究ではこのような前兆が合った場合、心臓は、ある程度、虚血に晒さ れて、ある意味で準備段階から慣れてきているので、側副血行路が発達する十分な時間があることもあり、比較的予後が良いという報告も行われている。逆に、 最初の発作が心筋梗塞でいきなり発症した場合は、壊死する範囲が大きく被害が大きいと報告されている。
心臓病を専門にする立場から言えば、全ての患者さんは全員が異なった病態を持っているのが当たり前である。PTCA(冠動脈形成術)のようなイン ターベンション手術を専門医する医師は、患者さんの顔を見ても全く何も思い出せないが、冠動脈造影を見たとたんに、既往歴から経過から手術の細かいプロト コールまで全て思い出す等と言うことはよく言われることである。これは、それぞれの患者さんが、似ているようでいながら全く異なる冠動脈像や病変を保持し ているからでもある。
このように心筋梗塞一つとっても様々な病態があり、どうしても動物実験だけでは全ての患者さんのモデリングはなかなかに困難である。コレステロール が高くて器質的狭窄があり、何回かスパズムを起こし・・・などと言う動物実験モデルは製作が難しいことは勿論である。コレステロール値などに異常があれ ば、血液の粘性も異なり、そのモデリングも難しい。
従って、動物実験モデルは、複雑な病態のごく一部を抽出して作成したもので、当然ながら人間の病気とは全く異なっている部分も多い。

3. 臨床試験なら大丈夫なのか?

動物実験で効果と安全性が確認されれば臨床試験へ移行することになる.
例えば薬剤の開発において臨床試験は三相に分かれ、フェーズ1では、健康な成人志願者や特定のタイプの患者さんを対象に、安全性を確認する。フェー ズ2では少数の患者さんを対象に、有効で安全な投薬量、投与方法、期間などを調べる。欧米で開発された薬剤が体格の小さな日本人にそのまま有効であるかど うかはここでの検討が重要であり、欧米で画期的といわれた薬剤が日本では全く効果が確認されない場合、フェーズ1での安全性を重視する余り、十分な有効血 中濃度に達しない分量で認可されてしまった場合がある (1-6)。
最近流行のevident based medicine (EBM)のメガスタディでは数千数万を対象として10年単位のフォローアップ調査を行うが、欧米のメガスタディの成績が日本では当てはまらない場合、分 量の問題がよく問われることになる。これはこのフェーズ2で適切でない分量が設定されてしまった場合に頻発する。しかも、この問題は市販された後に10年 単位で初めて明らかにされる事実であるだけになかなか厄介でもある。
フェーズ3では、より多くの患者さんを対象に、候補薬剤と既存の薬剤またはプラセボと比べて、有効性や安全性に関する最終確認を行う。特に問題にな るのはこの「従来の薬剤と比べて・・・」であり、統計的に効果が差がなかった場合に認可が下りないという問題である。代謝経路における作用部位が同じで あったり、作用機序が似た薬剤であった場合、従来の薬剤とは効果に統計的有意差が出ないことも良く起こり得ることは勿論であり、ことここに至って十年単位 の開発が、認可が下りずに全く無駄に終わる可能性も高い。そこで、今度は先ほどと逆に、薬剤の効果を強力に出すべく、より血中濃度を上げるために含有され る分量の多い製剤を開発する場合もある。その場合、従来の薬剤より効果は出ても、先ほどとは逆に今度は長期フォローアップのメガスタディで作用が強すぎる 等の問題が出てくる場合もある。
日本で開発された高脂血症の薬剤は、その強力な効果で全国の医療現場に驚愕を持って迎えられたが、コレステロールは確かに強力に下げ、更にその作用 によって心血管イベント(心筋梗塞などの心臓血管系の動脈硬化によって発生する病態)も有意に減少させたが、最近のメガスタディでは、それが必ずしも死亡 率の減少には結びつかないなどの報告も散見されるようになってきている。
すなわち患者さんのコレステロールを余り下げすぎれば、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患は確かに減少させても、それが、他の疾患の発生に結び つく可能性も指摘され始めているわけである。順番こそ多少前後しても、欧米でも日本でも、主たる死亡原因の大きな部分を占めるのは心筋梗塞や脳卒中などの 動脈硬化性疾患と並んで悪性腫瘍が重要である(9-12)。ここから、あるいはコレステロールの低下療法と悪性腫瘍の関連性の可能性が指摘され始める根拠 ともなっているが、細かい経路にはまだ諸説もあり異論も多く、定説には至ってはいない。
ここで強調しなければならないことは、臨床試験で効果が確かに確認された場合でも、本当の判断は市販後の長期フォローアップやメガスタディを待つ必要があることである。
すなわち、基礎研究から、in vivo, in vitro, 動物実験だけでなく、臨床試験におけるフェーズ1x3の精密な検討も、ある意味では疾患モデルの研究に過ぎないとも言える。本当の対象は、 疾患を持つ全患者であり、ここに至るまでの検討は、すべてある種のモデルを想定した研究に過ぎないと考えることも出来るわけである。
治療薬剤の開発を対象に、基礎から動物、臨床試験に渡るまでのモデルの役割について検討してみたが、対象を医療機器に移してモデルの役割に着いて振り返ってみたい。

4. 医用工学研究におけるモデリング

動物実験が困難になりつつある現在、現実に疾病のモデルを作成する方法論は益々重要になりつつある。モデリングには循環系を模擬した電気回路モデルや、数式のシミュレーションなど種々のものが報告されている。
最近、東北大学では流体力学の数学的計算からカルマン渦の流線を計算し、現実の流れの可視化のデータと比較完投して良好な一致を得ているが、正確な シミュレーションを具現化するために、実際の計測データをフィードバックする方法論の開発を試みている。現実のデータを一点でもフィードバックできれば、 シミュレーションの正確性が飛躍的に向上することは勿論である。
例として動脈圧反射の数理電気回路モデルから動物実験モデルにおけるシミュレーションを例示し、その結果の臨床データへのフィードバックを試みているので概述する。

5. 血圧反射の数理モデル

左心循環系の電気回路モデルには単純なものではウインドケッセルモデルが用いられることが多い。抵抗とコンプライアンスからシンプルな左心循環を具現化するモデリングの方法論である。
これに、フィードバック回路としての血圧反射モデルを負荷して図示する。
model1.jpg この数理モデリングは、Cavalcantiらの96年の報告を元に(13)、東北大で改良されたモデルである。このモデルにおいて血行動態の時系列間における相互作用にシグモイドカーブを模した非線形性を導入したのが特徴になっている(14)。
この電気回路モデルによるシミュレーションでは興味深い現象も観察されている。
例えばこのフィードバック回路の血圧反射における遅れ時間を短く設定すれば、心拍変動や血圧などの血行動態の時系列データは一定値に収束する定置制御型の時系列曲線を示す。血圧反射はホメオスタシスを示す代表的な制御機構であり、この範囲ではこの現象が具現化している。
ところが、この遅れ時間を長くしていくと興味深い現象が観察される。
時間遅れを長くしていくと、まず時系列曲線の発振が始まる。フィードバックのコンセプトを考えてみれば、血圧が上がれば、反射により心拍数が下が り、心拍出量が下がるので結果として血圧が下がる。これを繰り返せば、当然のことながら、フィードバックの繰り返しはサインカーブのような発振を繰り返す ことになる。
ところがこの時間遅れを長くしていくと、この発振は二つの周期を持つ時系列曲線となりやや複雑な時系列が得られる結果となる。更に遅れ時間を増加させていくと、結果としては決定的カオスの存在を示唆する複雑な時系列が得られる結果となる (図4)。
これは、電気回路モデルを元にした数理科学シミュレーションから得られた結果である。この結果は先ほどの薬剤開発プロトコールに準じて考察すれば、次に動物実験でこの結果を確認する必要があることになる。

6. 人工心臓動物実験モデル

原理を正確にシミュレートすることは、残念ながら動物実験で容易であるはずはない。原理が精密に決まっていればいるほど、それを再現することは困難に陥る。
title3.jpg 例えばここでシミュレートした血圧反射を、動物実験で再現しようとすれば、心拍数を変えるだけでは純粋に現象を抽出できない。ペースメーカを用いて 心拍数を変えても、動物の心臓は液性因子の影響から独立ではありえないし、そもそもペーシングによる収縮自体が自然なものではない不自然さが残存してい る。ペーシングリードの位置により、収縮のダイナミクスの形態が異なってしまうのである。 
理想的に原理を抽出できうる人工循環の臓器としては人工心臓が存在する。
そこで、人工心臓を用いた動物実験で、血圧反射をシミュレートすると言う方法論が考えられると言うことになる。
図に示すように、両心バイパス型の人工心臓で実験を行えば、心臓のダイナミクスは生体から完全に独立させることが可能になるので、理想的なシミュレーションが具現化する。
その結果、電気回路シミュレーションの結果と同様に、血圧反射が時系列にカオス的ダイナミクスをもたらすことが観察された。
このように、様々なモデリングの結果から、血圧反射フィードバックが生体のカオス的ダイナミクスに大きな役割を果たしていることが確認された。

7. 臨床データへの応用

血圧反射系が最も傷害された病態生理を考察してみれば、その病態は血圧制御の破綻と言うことになる。すなわち、血圧反射系の破綻は、結果として「高 血圧」の病態を形成することになる。破綻した血圧反射系では、血圧が上昇しても、心拍数が減少するシステムが働かず、心拍出量が低下しないので、結果とし て血圧は高い値に放置され、高血圧になることになる。
血圧反射は循環動態を制御する最も重要なパラメータの一つである。従って血圧反射系が破綻すれば制御パラメータが一つ減ることになるので、循環動態 の時系列の持つ情報量は結果として減少する。時系列の保持する情報量が情報量エントロピーで定量化できるものと仮定すれば、血圧制御系が破綻した循環動態 では、時系列の持つ情報量エントロピーは減少していることになるはずである。
HRV.jpg カオス的な非線形ダイナミクスはフラクタル次元で定量化されるが、フラクタル次元の様々な計算法があり、情報量エントロピーから計算する方法論は情 報量次元と呼ばれるが本質的には、どの方法論で計算しても数学的にはフラクタル次元は一致する。すなわち、非線形ダイナミクスの情報量の定量化にはフラク タル次元解析も有効な方法論の一つである。
図にボックスカウンティング法を用いて計算した健常者のホルター心電図における心拍変動フラクタル次元解析の日内変動を提示する。
日中の活動では様々な外乱が加わって変動が複雑化する影響もあり、一般に日中のほうがフラクタル次元が高い傾向が観察される。
HRV-HT.jpg これに対してある種の高血圧患者においては、その心拍変動のフラクタル次元が有意に低下している例もある。
この現象、血圧反射系のような心拍変動を規定する制御系が破綻し、心拍変動の時系列の保持する情報量エントロピーが低下傾向にあるための結果であると考察することができる。
この症例に対して、ある種の血圧制御系を改善する作用があると報告される薬剤を投与すると、血圧の改善とともに、ホルター心電図解析結果の心拍変動 のフラクタル次元が回復する傾向が観察された。これは血圧制御系が回復することにより、情報量が複雑化する方向へ傾き、フラクタル次元の日内変動が回復し た結果と考えれば矛盾なく解釈できる。
すなわち、電気回路モデルでは、血圧反射フィードバックの付加により、時系列にカオス的ダイナミクスが発生した。人工心臓動物実験モデルでは、血圧 反射を模した人工心臓制御によりカオス的なゆらぎの発生が観察された。そして心拍変動では血圧反射系が障害されていると臨床的に判断された高血圧患者に薬 剤加療を行ったところ、カオス的なダイナミクスが改善しフラクタル次元が増加傾向にあるのが観察された。
ある意味で数理モデル及び動物実験モデルによって臨床データがシミュレートできたことものと解釈できるものと考えられた。
モデリングという方法論にはもちろん限界もある。
本質的にトータルシステムの本質と思われる部分を抽出して作成した以上、モデルはあくまでもシミュレーションに過ぎず、現実の人間の病態の複雑性とは比較にならない単純なシステムに過ぎないという批判は否定しきれない。
数理モデルの単純性は議論の余地がない。動物実験モデルは動物が本質的に人間とは異なる代謝系を保持している以上、ごく一部のモデルにしかなり得な い。では、臨床データが正解かといえば、どんな膨大な臨床データも、全患者の標本の抽出に過ぎないので、必ずしも本質を突いていると保障しかねる側面は否 定しきれない。例えば一部の抗不整脈の薬剤は、ある種の患者の不整脈は抑えるが、結果として投与患者の統計から、死亡率を上昇させることが判明して問題に なった場合もある。これは一部の患者の症状を抑えるというサンプリングと治療目標のモデルの立て方が間違っていたとも解釈しえる。
数理モデル、動物モデル、臨床モデルなどを駆使して、薬剤の開発や医工学機器を対象にモデリングについて解説した。限界をよく見極めつつ応用すれば、モデリングという方向性もまた医工学技術の発展に益するところも大きい有効な研究の方法論のひとつである。
文責:山家智之(東北大学加齢医学研究所)

References

  1. Illingworth DR, Bacon S: Hypolipidemic effects of HMG-CoA reductase inhibitors in patients with hypercholesterolemia.Am J Cardiol.:Oct 30;60(12):33G-42G., 1987
  2. Watanabe Y, Ito T, Shiomi M, Tsujita Y, Kuroda M, Arai M, Fukami M, Tamura A: Preventive effect of pravastatin sodium, a potent inhibitor of 3-hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A reductase, on coronary atherosclerosis and xanthoma in WHHL rabbits. Biochim Biophys Acta. Jun 15:960(3):294-302,1988
  3. Yoshino G, Kazumi T, Iwai M, Matsushita M, Matsuba K, Uenoyama R, Iwatani I, Baba S: Long-term treatment of hypercholesterolemic non-insulin dependent diabetics (NIDDM) with pravastatin (CS-514). Atherosclerosis. Jan:75(1):67-72.,1989
  4. Illingworth DR, Bacon S: Treatment of heterozygous familial hypercholesterolemia with lipid-lowering drugs.Arteriosclerosis. :an-Feb;9(1 Suppl):I121-34. ,1989
  5. http://homepage1.nifty.com/revolt/yougo.tiken.html
  6. http://www.kier.kyoto-u.ac.jp/~arigagroup/HEC/2001/HEC2001(yamada).pdf
  7. Fozzard HA: Validity of myocardial infarction models. Circulation. Dec;52(6 Suppl):III131-46. ,1975
  8. Daniel TM, Boineau JP, Sabiston DC: Jr. Comparison of human ventricular activation with a canine model in chronic myocardial infarction. Circulation. Jul;44(1):74-89. ,1971
  9. Vatten LJ, Foss OP: Total serum cholesterol and triglycerides and risk of breast cancer: a prospective study of 24,329 Norwegian women. Cancer Res. 50 : 2341-2346, 1990.
  10. Larking PW: Cancer and low levels of plasma cholesterol the relevance of cholesterol precursors and products to incidence of cancer. Prev Med. 29 : 383-390, 1999.
  11. Williams RR, Sorlie PD, Feinleib M: et al: Cancer incidence by levels of cholesterol. JAMA. 245 : 247-252, 1981.
  12. Rywik SL, Manolio TA, Pajak A, et al: Association of lipids and lipoprotein level with total mortality and mortality caused by cardiovascular and cancer diseases. Am J Cardiol. 84 : 540-548, 1999.
  13. Cavalcanti S, Belardinelli E: Modeling of cardiovascular variability using a differential delay equation. IEEE Trans Biomed Eng. : Oct;43(10):982-9, 1996
  14. Yambe T, Yoshizawa M, Tabayashi K, Nitta S: Searching for the origin of chaos. In: M.Akay ed. Nonlinear Biomedical Signal Processing, IEEE EMBS book series pp 40-72. 2001
special thanls to Ms. Yoko Ito and Mrs. Hisako Iijima
更新日時:2006/04/10 00:03:07
キーワード:
参照:[循環器疾患に関するメディカルインフォーマティクス

chaos Making!


Making of chaos

We could constitute the feedback loop for an artificial heart automatic control algorithm by the use of an autonomic nerve discharges or Mayer wave in peripheral vascular resistances, and or so. It may be make a complicated structures in time series data as メcomplex systemモ like chaos or fractal.
However, is it really make complex system like circulatory regulatory system in creatures ?
A few investigators have challenged this problem. For example, Cavalcanti et al, reported a very interesting article in 1996 [20,21]. The profile was tried to be explained here. Model of baroreceptor reflex series was constituted with simple mathematics model. Simulation with various delay in the feed back loop were carried out. Behavior of the hemodynamics repeats bifurcation from the simple limit cycle vibration. Before long, it changes to the condition which is chaotic. With alteration only of delay, time series showed period doubling bifurcation, and reached to the chaos. This kind of experiment wasn't carried out at the past. As a result, interest is attracted very much.
If it is considered from a viewpoint of artificial heart control, baroreflex delay means the control delay of an artificial heart. Of course, hemodynamics is a signal of time series such as blood pressure or heart rate. We tried to generate deterministic chaos in the feedback loop model of an artificial heart control.
Section equivalent to cardiovascular system had been simulated with the three elements Windkessel represented with simple electric circuit. Three elements Windkessel is expressed as the systemic vascular resistance (R), arterial compliance (C) and the characteristic impedance (r). In this model, input is aortic flow, and the output is aortic pressure. In other words, it is been similar to cardiovascular system with electric circuit model. Formula formed with this model is (4) and (5). Each value of these three elements was adopted from the data mentioned in the literature of the physiology.
dP(t) = ωt[ RQ(t) - Ps(t)], ωt = 1 / RC (4)
P(t) = Ps + Q(t) (5)
In this simulation, non-linear curve was used for determination. Cardiac cycle (T) and Stroke volume (SV) is decided from arterial blood pressure (P), which is an data of a baroreflex. In this study, non-linear curve as the sigmoid function was used for that purpose as we shown in (6) and (7). Concerning the each constant, we sought the value from the literature in physiology. Figure 14 and 15 showed its relationship.
 
T(P) = Ts + (Tm - Ts) / ( 1 + γe -αP/Pn) (6)
SV(P) = Svmax / ( 1 + β( P / Pv - 1 )-k) (7)
Delay t was introduced in the feedback loop in this study. After the delay time r, it was input into the next element. This was included in the feed-back loop branch. This time delay r was altered as a parameter, when we carried out the simulation.

The simulation model.

In this study, deterministic chaos was tried to be caused only with alteration of delay by the use of this very simple model. Block diagram was made like a fig.16. Simulation was carried out about this model. Time series data of the simulated hemodynamic parameters, three dimensional attractors and frequency spectrum was observed here. We had used MATLAB for simulation and analysis.

Experimental result

Behavior of the hemodynamic parameters were simulated in the simple electrical circuit model with a changes of the delay time r. Various interesting phenomenon were shown in the simulated data. Only some typical data were picked up and shown in the figures.
Figure 17 showed simulated time series data of blood pressure, RR interval and stroke volume with time delay 0.6 s. Right side showed reconstructed attractor of the simulated time series with BP, HR, and SV. In the time series data of these parameters, all signals showed the damping oscillation. The whorl which converges in a point was shown in the reconstructed three dimensional attractor.
Figure 18 showed simulated time series data with time delay 1.5 s. In the time series data of these parameters, all signals showed the constant periodic oscillation. In the reconstructed three dimensional attractor, the orbit converged and drew circle. This showed so called the limit cycle attractor.
A little complex result with time delay 1.8 s was shown in figure 19, simulated cardiovascular signals showed interesting time series suggesting one set periodic oscillation with two mountains. When we reconstructed these data into the three dimensional map, the orbit converged and becomes track with two rounds.
And complex time series was shown with time delay 2.5 s, as we shown in figure 20. Simulated cardiovascular signal showed complex oscillation without any rule. We tried to embed these time series into the three dimensions. As we shown in right side of figure, the orbit which isn't accompanied with convergence is drawn.
We paid attention to the behavior with time delay 2.5 s. Time series data and the power spectrum analysis of simulated heart rate variabilities were shown in figure 9.
Time series wave form of HR becomes complex oscillation same as other cardiovascular signal, too. There is frequency spectrum as the biggest beak approximately 0.12 Hz with many mountains.
We tried to let initial value change at the time of delay 2.5 seconds inconsiderably. As we shown in fig.10, a figure repeated time series wave form of each HR, and it was written. A result draws time series wave form of oscillation different at all mutually.

Discussion

By the use of information of an autonomic nervous system like sympathetic nerve activity of the Mayer wave in the peripheral vascular resistances, we can make feed back loop for an artificial heart automatic control system. In this study, we make simulation model by the use of the electrical circuit model. Behavior changes in the simulation model altering delay time could be shown in figures. When delay in simulation was small comparatively, a signal of everything showed damping oscillation. The whorl which converges in a point was shown in the reconstructed three dimensional attractor. And if we set up larger delay in the simulation circuit, periodic oscillation, and then, period doubling phenomenon were shown in the reconstructed attractor. After the repeating of the period doubling according to the increase of the delay time, we could get strange attractor suggesting the existence of deterministic chaos, when we set up the delay time of 2.5 seconds in this simulation model electrical circuit. This complex oscillation didn't disappear even if delay was set up more than 2.5 seconds.
There is a point showing the characteristics, which showed deterministic chaos, when tries to pay attention to this condition. At first, frequency spectrum of the simulated heart rate variability showed it. As we shown in the figure, power spectrum has a peak on the section which wasn't harmonics composition. And a lot of another small mountains were found. These many spectrums was considered to have made a complex signal. This spectral pattern was, of course, one of the characteristics of the deterministic chaos. Only harmonics composition shows a peak in case of limit cycle.
The second was behavior of the simulated data at having let initial value alter. As one of fundamental characteristics of chaos, there was the sensitive initial value dependence. Actually it was clear if watched a figure. We had tried to let alter the initial value a little and did simulation. Time series wave form showed oscillation different at all.
This phenomenon backed up the existence of the deterministic chaos.
When a spectrum was tried to be paid attention to, a peak having the biggest power in 0.12 Hz is found. This was, of course, a peak equivalent to Mayer wave. Fluctuation of period for approximately 10 seconds was the character which was very special in the creatures. By the use of model with this simple electrical circuit, this interesting fluctuation was caused. In this simulation, we might be able to consider that the delay would cause this phenomenon.
Non-linear curve, which was, of course, common in creatures, was tries to be considered this time. From blood pressure, determination of cardiac cycle and SV was performed with non-linear curve of sigmoid style. From these two curves, the curve which decided flow from blood pressure was drawn. In this simulation, operating range of blood pressure was from 70 to 100 mmHg, which was similar to human body. The section of graph had tried to be paid attention to. In this curve, this range had drew curve of the convexity which just resembled a logistic function. With this cause, メstretchingモ and メholdingモ might be happened. And it is considered to have caused the condition which was chaotic.
However, of course, this electrical simulation model still includes some problems, yet. Some important problems were shown below.
1. Complex cardiovascular system was simulated with simple electric circuit model.
2. Stroke volume (SV) was decided with arterial blood pressure.
3, Simulation only of the systemic circulation by left heart
It was thought that the first problems may be important. We need to consider whether this model was able to simulate the original living body and which degree. Model of baroreflex series is made from real data of the creatures, and further simulation needs to be retried in future. And SV depends on pressure of the atrium which is pre-load. In electrical simulation model of this study, it is decided only by the arterial blood pressure, which is afterload. And, of course, behavior of the pulmonary circulation was important. Accordingly this baroreceptor reflex model is not enough, yet. Baroreceptor reflex system of the original living body will not be expressed in only this simple electrical simulation model.
However, it is considered that chaotic dynamics may be caused with simple three elements circuit with some delay. These results suggest that we could achieve the chaotic dynamics like human body by the use of feed back automatic control algorithm of an artificial heart system. These results may be very important in future, if we consider the Age, in which Artificial organs become very common, and QOL of Artificial organs become important. So, studies will want to be continued with more refined procedure.
更新日時:2006/04/10 22:45:24
キーワード:
参照:[Welcome Dr. Yambe's Home Page!! (eng)] [Origin of Chaos

波動エンジンスタート!


波動型補助人工心臓開発プロジェクト!

医薬品機構基礎研究事業五大学総合プロジェクト
五大学共同研究体制
欧米の人工心臓は大きすぎてほとんどの日本人には埋め込めませないことはもはや定説になっています。小型化のためにはロータリーの応用もありますが 脈がなくなると言う生理学的な問題が残ります。そこで東北大学では駆動周波数を増加させる振動流ポンプを開発してきましたが、周波数を増加させるために は、必ずしも往復運動にする必要はありません。このプロジェクトで開発される波動型人工心臓は、回転運動を変換して揺動運動から容積を拍出する方式に変換 する全く新しい人工心臓です。
uptah.jpg この人工心臓を開発するために、厚生省医薬品機構副作用被害救済・研究振興調査機構の受託研究により、東北大学の他、東京大学早稲田大学北海道大学九州大 学及び国立循環器病センターなど、五大学一研究センターの共同研究で平成8年から13年まで五億円をかけて研究開発の基礎研究を行ってまいりました。
このたび、この研究のベースの上に平成14年度から五年間、再び五大學共同で波動ポンプを応用した埋め込み型補助人工心臓を開発する目的で、総額五億円が見込まれる大型予算が医薬品機構で採択されました。
東北大学では経皮エネルギー伝送システム開発と、補助心臓の動物実験による心補助効果に関する研究、多臓器不全を予防するための臓器循環制御の研究が行われる予定です。
TDVAD.jpg
五年後には臨床に供するシステムの完成が見込まれています。

2006年4月9日日曜日


頭の良くなる人工心臓!

重症心不全に於ける最終的な救命手段として、また心臓移植までのブリッジユースとして現在までに種々の補助人工心臓システムの開発と臨床応用が試みられてきている。しかしながらその長期成績は未だ満足出来るものではない。
臨床成績の向上を妨げる大きな原因の一つとして多臓器不全の問題がある。
そこで我々は、埋込型補助人工心臓による補助循環時の臓器血流の問題に着目し研究を進めている。
MiVFP.jpg 生体の心拍出量は無理にこれを増大させようとしても限界があり、また心拍出量が少なければ、各臓器や抵抗血管側の反応によって生命を維持しようとする作用がある事が知られている。
従って心拍出量の増減だけで臓器血流をコントロールすることには限界がある。 
そこで、我々は血流の周波数成分に着目した。
周波数成分の影響を調べるために用いた人工心臓は自然心臓に比較して比較的高周波で駆動することによってポンピングチャンバーを縮小し、小型軽量化を目指した振動流型補助人工心臓である。(図参照)
東北大学では臨床応用において重要な問題となる多臓器不全の問題に着目し、多臓器不全を防止する人工循環について検討を行うために、補助循環時の臓器血流について検討を行った。
成山羊を用いた動物実験を行い、左心バイパス方式で振動流型補助人工心臓を装着し、臓器血流に与える影響について検討を加えるために、近赤外線光を用いた組織酸素飽和度の計測を試みた。
BrainNI.jpg 臨床でもっとも汎用される40~50%左心バイパス時における血流分配について検討を加えるために脳内酸素飽和度から脳血流を検討したところ、30Hz前後の駆動周波数における左心補助時に脳血流の有意の増加が観察された。
従って同一血流量においてもその駆動周波数によって臓器毎の血流分配に有意の影響を与えていることが判明した。
この現象を応用すれば、同一の補助流量を維持しつつも、各臓器の機能に応じて周波数をコントロールすることによって多臓器の制御を具現化するものと考えられた。
このような性質の応用によって埋込型補助人工心臓による多臓器機能制御が具現化する可能性があるものと期待される。
すなわち、ひいては人工臓器による重症臓器不全に対する画期的な治療システムとなるものと期待される。
更新日時:2006/04/09 16:34:15

人工括約筋の開発

新エネルギー産業技術総合開発機構医工学連携プロジェクト
  • 加齢医学研究所病態計測制御
  • 流体科学研究所知的流動評価
  • 大学院医学系研究科小児外科学

直腸癌等の手術の後、人工肛門の適応になる患者は、現在日本だけでも二十万を超えると推定されています。現在の人工肛門は排便のコントロールが不可能で、腹壁のストーマにパウチを貼り付けて使用するが、QOLを著しく阻害する側面は否定しきれません。
そこで東北大学では、形状記憶合金を応用して、排便をコントロールする「人工括約筋」を発明しました。
形状記憶合金はわずかの温度上昇がダイレクトに運動エネルギーに変換されるので、最も高効率の人工臓器用アクチュエータの一つです。この形状記憶合金に内側にシリコンラバーを装着して圧迫壊死を予防し、全体を生体親和性材料でコーティングします。
駆動エネルギーはアモルファスファイバーによるマグネティックシールディングで効率化を図った経皮エネルギー伝送ユニットにて投入します。完全オフラインで感染予防が可能です。
  1. 人工括約筋の概要
  2. 新聞記事 ・・・日経産業新聞、日本経済新聞、日本経済新聞、日本工業新聞、河北新聞、ベンチャーコンソーシアム、
  3. 経皮エネルギー伝送システム
  4. 発明のきっかけ

Future Perspective

現在、試作品についてはほぼ完成の領域にあり、慢性動物実験によって耐久性試験の段階にある。今後、動物実験を積み重ねて次の計画では「臨床前試験」に進み、臨床治療試験の最終準備段階に入る予定です。
2月22日、テレビ朝日「がん戦争」にて、「人工括約筋プロジェクト」が紹介される予定になっています。
更新日時:2006/04/09 20:38:17
キーワード:
参照:[ナノテク応用型人工臓器の開発と臨床応用に関する研究

脳血流の制御可能な新しい補助人工心臓

厚生労働省循環器病研究委託事業「人工循環による循環器病制圧のための系統的戦略の確立に関する研究」

重症心不全に於ける最終的な救命手段として、また心臓移植までのブリッジユースとして現在までに種々の補助人工心臓システムの開発と臨床応用が試みられてきている。しかしながらその長期成績は未だ満足出来るものではない。
臨床成績の向上を妨げる大きな原因の一つとして多臓器不全の問題がある。
そこで我々は、埋込型補助人工心臓による補助循環時の臓器血流の問題に着目し研究を進めている。
生体の心拍出量は無理にこれを増大させようとしても限界があり、また心拍出量が少なければ、各臓器や抵抗血管側の反応によって生命を維持しようとする作用がある事が知られている。
従って心拍出量の増減だけで臓器血流をコントロールすることには限界がある。 
そこで、我々は血流の周波数成分に着目した。
周波数成分の影響を調べるために用いた人工心臓は自然心臓に比較して比較的高周波で駆動することによってポンピングチャンバーを縮小し、小型軽量化を目指した振動流型補助人工心臓である。
東北大学では臨床応用において重要な問題となる多臓器不全の問題に着目し、多臓器不全を防止する人工循環について検討を行うために、補助循環時の臓器血流について検討を行った。
成山羊を用いた動物実験を行い、左心バイパス方式で振動流型補助人工心臓を装着し、臓器血流に与える影響について検討を加えるために、近赤外線光を用いた組織酸素飽和度の計測を試みた。
BrainNI.jpg 臨床でもっとも汎用される40~50%左心バイパス時における血流分配について検討を加えるために脳内酸素飽和度から脳血流を検討したところ、30Hz前後の駆動周波数における左心補助時に脳血流の有意の増加が観察された。
従って同一血流量においてもその駆動周波数によって臓器毎の血流分配に有意の影響を与えていることが判明した。
この現象を応用すれば、同一の補助流量を維持しつつも、各臓器の機能に応じて周波数をコントロールすることによって多臓器の制御を具現化するものと考えられた。
このような性質の応用によって埋込型補助人工心臓による多臓器機能制御が具現化する可能性があるものと期待される。
すなわち、ひいては人工臓器による重症臓器不全に対する画期的な治療システムとなるものと期待される。

三次元映像刺激に対する生体反応評価


三次元画像刺激に対する生体影響評価プロジェクト

機械システム産業協会・電子情報技術産業協会プロジェクト
映像デジタルコンテンツ評価システム開発に関するフィージビリティスタディ

東北大学では、ソニーなどの委託を受けて、新しい視聴覚刺激機器の開発の課程において、その自律神経機能へ与える影響を研究してきました。グラストロンの開発過程では様々な知見をソニーに提供してきました。その結果はバーチャルリアリティ学会雑誌などへ報告してきています。
そして、1997年、「ポケモンショック事件」が発生しました。
全国で1000万人を越えると見積もられる番組視聴者のうち、発作を起こして病院にかつぎ込まれた子供達だけでも700人を越え、日本放送史上に残る最大の大事件になりました。
事態を重視した政府は、郵政、厚生、通産などの各省庁に、事故を予防するためのプロジェクトチームを結成し、事件の収集に当たりました。
この事件をきっかけに加齢医学研究所でこれまでに行われてきた地道な研究の蓄積が認められ、総額一億を越える予算で附属病院に「映像メディア生体影響多次元総合評価システム」が設置されることになりました。
これは病態計測制御分野で研究され、発明されるに至った全く新しいシステムです。

3dreDet.jpg
更新日時:2006/04/09 22:33:53
キーワード:
参照:[バーチャルリアリティの医学応用と生体影響に関する研究

2006荻野賞


心臓血管インターベンション手術シミュレーションと感覚のデータベース化

日本ME学会荻野賞受賞!
文部省科学研究費研究事業

外科の世界に徒弟制度が残るのは、指先の感触と技術が経験を要するからだと言われています。
この問題は打破できないものでしょうか?
我々は心血管インターベンション手術のシミュレーションシステムの開発に成功し、医師の経験と感覚のデータベース化に挑戦しています。
併設してエキスパートシステムも導入したバーチャルPTCAの世界も楽しんでみて下さい。
この研究は、日本ME学会から、伝統ある「荻野賞」に選ばれ顕彰されました。

更新日時:2006/04/09 22:16:17

加齢現象は制御可能か?

老化とは何か、加齢とは何か? 
この問題に答えられれば、次世代において最も重要となる可能性が強い加齢の制御へ向けて最初の一歩を踏み出したことになると思われる。しかしなが ら、この問題は永遠の生命を求めた秦の始皇帝以来の、あるいはある意味で極言すれば人類発祥以来の問題であり、もちろん簡単には答は出ない。近年のアポ トーシスのような現象の研究や、遺伝子工学の発達、さらには臨床医学的な研究の蓄積など、有望な知見が得られつつあるが、これらの現象を積算したところ で、最終的な「加齢」という像が結実するわけではないことは自明と思われる。
機械工学に於けるワイプル関数のパターンが、機械の故障と人間の生存曲線とをともにシミュレートできうると言う立場から、いわゆる「人間機械論」 は、また脚光を浴びられているが、ここで言う機械とは勿論、鉄腕アトムのようにハードな機械で人間を作ろうという立場ではなく、柔らかい分子機械、分子シ ステムを想定しているわけではあるが、それでも機械には代わりはない。その分子機械としての生体の故障が初期故障と摩耗故障の二つのピークに分けられるこ とは、生存曲線との類似から明らかと考えられる。
では、分子機械である生体はいかなるパターンにて故障を来すのか?
これもまた、人間機械論としての加齢現象の制御に大きく役立つアプローチにはならないであろうか?
さて、加齢現象のような生体の全体において進行する変化は、これまでの科学研究において主流であった要素分解論的な微視的還元論では解明できない可 能性が考えられ、システム全体に視点を置いた全体論的な解析の方法論の適用が不可欠となってくるものと思われる。本研究では、非線形力学の方法論を駆使し て加齢現象をシステム全体の動特性に注目して追求することを目的としている。ここで重要になるのはもちろん加齢現象を解析するための実験対象である。これ までにも様々なモデルを用いて老化や加齢の実験的研究が進められてきた。そこで本研究では、これまでに老化や加齢の実験には応用されたことのないユニーク な実験対象の応用を試みた。
すなわち人工心臓装着慢性実験動物である。
完全置換型人工心臓を装着された動物においては、中心静脈圧の異常な上昇や血圧の異常な上昇、甲状腺ホルモンや心房性利尿ホルモン等の液性因子の異 常等の種々の病態が観察されることが世界中の人工心臓実験施設から報告されている(1-7)。例えば中心静脈圧の上昇に対処するべく人工心臓からの拍出量 を上昇させれば、高血圧を余計に悪化させることになり、対応に苦慮することになる。東京大学等ではこの現象を老化の加速として位置づけ、「人工心臓症候 群」と言う病態概念を提唱している(1-3)。そこで、本研究では、循環動態における加齢現象が促進されているという観点から、人工心臓の動物を実験対象 として選択した。
本研究では、人工心臓の慢性動物実験を行い、自然心臓による循環と、人工心臓循環の循環動態の非線形ダイナミクスの比較検討を行った。また循環制御 系について更に深く追求するために、交感神経活動電位の計測を行い、人工循環における中枢神経活動について考察を加えた。更に種々の制御方式について、加 齢現象の進行と、制御アルゴリズムの検討により加齢現象を制御する循環動態について追求した。?
人工心臓は世界中の施設で開発が進められており、大きくは補助人工心臓と完全人工心臓に分類され、更にエネルギー源も含めて完全埋め込み型であるか どうかと言う視点からも分類される。ここでは、加齢現象が促進されているという報告が行われていることから、外付けの両心バイパス型人工心臓を選択した。
生体は非線形ダイナミクスを持つ制御システムを駆使してカオス的な安定性を保持しているわけだが、人工臓器はある意味では単純、ともいえる概念の具 現化とも考えられる。人工臓器の中でも人工心臓のアイデアは比較的早期に着手されたものの一つであるが、これは心臓、と言う臓器の機能の極端な単純化に よって実現したものといっていい。すなわちポンプ機能という単一の機能への集中である。現在までに臨床に供されている人工心臓は、生体の制御システムから はある意味では全く独立であり、かつ内分泌機能など近年発見された新しい機構は無視したままである。このような単純化された人工心臓によって生体ではどの ようなことが起こっているのかを検討することは、今後の人工臓器の発展を考える意味でも非常に興味深い。
BiVAD.jpg 正常な循環と人工心臓循環を対比するために両心バイパス慢性動物実験モデルを製作した。正常な循環を検討するときは、ヘパリン化して人工心臓の駆動 を中止し、人工心臓循環を計測する時点では心臓は電気的に心室細動とし、人工心臓の循環のみで全身の循環を維持する(10-12)。この実験により、同一 個体における覚醒状態での自然な循環と人工心臓循環の比較が具現化することができる。これはカオス解析のような非線形解析においては非常に重要な計測の条 件である。
人工心臓による循環維持では、自然心臓による血行動態時系列曲線アトラクターと比較して、一見してアトラクターのもつ力学系の単純化が示唆されてお り、リアプノフ指数から計算されるKSエントロピーやフラクタル次元の計算の上でも非線形力学系の変化は明らかであった。人工心臓の駆動条件を固定してい るので、自発的にに心拍リズムや血管抵抗がゆらいでいることが周知である自然心臓と比べ力学系が単純化したものとも考えられるが、実は末梢血管抵抗だけを 観察してみると、逆に正常な心臓よりゆらぎの成分が大きくなっているのも観察され、生体がゆらぎを、ある意味で欲しがっているのではないかという仮説も検 討され、非常に興味深いものがある。
更に長期間での心臓血管制御系のアダプテーションの問題も考えられ、これらの病態生理学的、臨床医学的意義を追求していくには、今後、更に洗練された数学的な方法論による検討を要するものと考えられた。
自律神経活動
一時は共産圏等を中心に各国の威信をかけて繰り広げられていた人工心臓の長期生存オリンピックは、最近でこそあまり顧みられなくなったが、人工心臓 の長期生存実験がなぜ必要かという原点に立ち帰ってみると、結局、人工心臓の評価は、長期生存実験によってしか可能でなかったことによるということがわか る。2つの人工心臓を比較する時に、より長期生存をもたらした人工心臓の方が優れているはずだという評価基準である。これに対して更に洗練された方法論を 構築するべく、種々の人工心臓が生体に与える影響を種々の方法論で明らかにし、理想的な人工心臓の設計に役立てようという試みが行われている。
その代表的なものが、人工心臓循環における生体制御系、特に自律神経機能の解析である。人工心臓動物における自律神経活動電位の計測については我々 は 1987年頃から様々なレポートで報告してきたが、最近では国立循環器病センター、九州大学等でも計測が行われるようになり、昨年は東京大学からも制御に ついて、我々の制御コンセプトと全く同様の結果が報告され、注目されている。この神経活動の評価を行うことにより、ゆらぎのない人工心臓駆動におけるカオ ス性の成因を更に追求することが可能になるのではないかという可能性が期待される。
同一の対象において結果を比較するために、人工心臓は両心バイパス方式を採り人工心臓循環では心電図は心室細動とした。経後腹膜的に左腎動脈にアプ ローチし、腎交感神経にステンレススチール双極電極を接触させて活動電位を記録している。人工心臓循環では交感神経のバースト発射が、自然心臓ではなく人 工心臓に同期しているのが観察される。これを非線形数学路論の方法論を駆使してカオス性について検討するべく種々の方法論が試みられた。
カオス的ダイナミクスの特徴の一つに鋭敏な初期値依存性があり、位相空間において隣り合っていた軌道は速やかに分離する。この特徴を数学的に表現す る方法論の一つにリアプノフ指数解析がある。ここではWolfらの方法論によって最大リアプノフ指数を解析したところ、最終的に正に収束するのが確認さ れ、決定論的カオスに特徴的な初期値依存性の存在を示唆されていた。従って、血管運動などを規定すると思われる自律神経においてもカオス的なダイナミクス の存在が示されていることがわかる。
では交感神経活動のカオス的ダイナミクスは、血管運動を介して人工心臓の循環のカオス性を規定しているのであろうか
この点を明らかにするためには、カオスに代表されるような非線形ダイナミクスにおける情報の流れを明らかにする必要がある。線形システム解析におい てはスペクトル解析等の方法論を駆使して、伝達関数や関連度関数から周波数成分の原因を追及するのが一般的ではあるが、これらの方法論はカオスに代表され るような非線形ダイナミクスの解析には、もちろん適当ではない。ここではかかる面を鑑み、確率論で提唱される相互情報量の概念を用いる。具体的には神経活 動と血管抵抗を一対の系 (S,Q)を定義して「sの測定値がわかっているときに、qについてどれぐらいの情報量(bits)が平均して予測されるか」というように相互情報量が定 義された。計算アルゴリズムはfraserらの方法に従い、(s,q)平面にデータをプロットして短冊状に分割して計算した。相互情報量が大きいほど一対 の時系列の片方の情報からもう一方の情報量が多く予測されることになる。
相互情報量解析の結果より、人工心臓循環における交感神経と血管抵抗のカップリングは、駆動条件によっては自然心臓のそれよりも強力になっているこ ともあり、かかる点から交感神経も持つ非線形ダイナミクスは、血管系の制御を介して人工心臓循環のカオス性に強力な影響を与えていることが明らかとなっ た。極めて密接に結びついていることが当たり前という観点も成り立つ循環動態と交感神経活動のカップリングにおいて、人工心臓循環の方が、神経系と自律神 経がより強力に結びつくこともあり得るという結果は極めて興味深いものであり、今後更なる検討を要する。
相互情報量解析結果を、心臓と血管と神経という三つのパラメータの視点より考察すると、本来は神経系は心臓も血管も両方とも制御するものであるが、 心臓を制御するのは交感神経、副交感神経のような自律神経系だけではない。神経性因子・液性因子の他にも前負荷・後負荷の力学的な影響も受けることは広く 知られており、様々な制御系が関与している。従って自然心臓循環ではその循環動態は神経だけではなく、他の多くの因子が関与していることになる。これに対 して人工心臓循環では種々の制御系は少なくとも人工心臓の駆動には全く影響を与えない。制御系が関与するのは血管系のみであり、血管抵抗やコンプライアン スの制御を介して人工循環に影響を与えることになる。
従って人工心臓循環において神経系と循環動態のカップリングが強くなる場合があるのは、他の制御系が心拍変動を介して循環動態に影響を与えるという 因子が除去されるためかもしれないと言う仮説が成り立つものと考えられた。この点は更なる追求が必要であり、今後液性因子の計測などを含めた更なる実験の 蓄積が必要と思われる。
少なくとも人工心臓循環でも循環動態を支配すると思われる末梢血管、肺血管等の血管系の経時的変化、またそれを支配する神経系ともにカオス的ダイナミクスの存在は明らかであり、更にこの2つの因子の間の非線形情報の流れも明らかに示唆されたものと考えられる。
これは人工心臓を用いたオープンループ解析によって初めて明らかになった事実と考えられた。
人工心臓循環においてもカオス性は維持されており、それは中枢のもたらす神経活動の非線形情報によって規定されていることが明らかとなったものと考えられる。
このカオス的ダイナミクスは圧受容体を介した反射経路により中枢にまた影響を与え、心拍変動を規定することは自明であり、血管運動が循環動態の持つ カオス的ダイナミクス全体を支配しているという視点も成り立つ。この血管運動は中枢神経系に支配されていることは、相互情報量解析による非線形情報の流れ を解析した結果より明らかである。
従って、心臓血管系のカオス的ダイナミクスは、中枢神経系の制御する血管運動に起因する可能性があるものと考えられる。
しかしながら本研究の持つ方法論の限界もある。すなわち、本来クローズドループである心臓血管制御系をオープンループ化することはそれだけで生体に 重大な影響を与え、結果は修飾を受ける可能性がある実験である。例えば、我々も以前報告したが、ゆらぎのない人工心臓を負荷することによって、制御系のゆ らぎ成分が影響され、例えば交感神経系のゆらぎ成分は増大することもある。これらの結果は当然本研究の結果に重大な影響を与える。また事象のそもそもの原 因を探る問題は、どの分野でも困難であるが、卵が先かニワトリが先かというような堂々めぐりに陥ってしまう場合もある。本研究では心臓を除去して成因を追 求して中枢神経系にたどり着いたが、逆に血管系の因子を除去する立場もあり得る。これらの観点からも本研究の成果は明らかに限定された状況によるものでは ある。従って、本研究の成果は、心臓血管系のカオス的ダイナミクスは、交感神経系を介した血管運動によっても説明できうる動特性である。ということは最低 限、証明できたものと考えられた。
加齢現象と人工心臓制御
本研究では加齢促進モデルとして人工心臓慢性実験動物を選択している。そのために両心バイパス型の人工心臓装着動物を作成し、慢性動物実験を行っ た。人工臓器における循環動態の病態生理学的な異常としては、動脈圧の上昇、中心静脈圧の上昇、甲状腺ホルモンの異常など多くの現象が報告されている。こ れらの病態生理学的な異常の原因として、まず心拍出量が足りないという説や、心臓の切除によるレセプターの欠如、また人工心臓による解剖学的な心房や大血 管の圧迫等、多くの可能性が示されてきた。そこでこれを克服するために、種々の自動制御システムの提案や、心房での電気刺激、また種々の薬物投与など多く の試みが行われてきた。しかしながらこれらの病態生理学的な変化を完全に克服するまでには至らなかった。
本研究ではこれらの病態生理学的な変化を、加齢という現象の一種の促進反応ではないかという仮説を考案した。そしてそれらの変化の成因を追求し、効 果的な対応策を検討するために、従来行われてきたようなトータルシステムを微分的に分解してゆくようないわゆる要素還元論的な手法ではなく、システム全体 に注目した全体論的な解析法について検討した。そこで世界記録を更新した完全置換型人工心臓慢性実験山羊の血行動態時系列曲線の記録を行ったが、安定した 計測を具現化するために、カニューラ内圧による血行動態記録を行っているために、圧波形にはいわゆるWater hammer現象により高いピーク圧が記録され、連続時系列曲線によるカオス解析には非常に困難に直面した。ストレンジアトラクターを再構築しようにも、 主成分分析を行うと、非線形ダイナミクスに最も大きな影響を与えているのは人工弁のWater hammerという結論になってしまい、病態生理学的な異常の成因を追求するには不適当であるという結論が得られた。またもちろん人工心臓動物であるから には、心電図の記録は論外であることは自明である。そこで血行動態の大本になっているという観点からも、人工心臓の拍出波形を電磁流量計を用いて計測し た。得られた時系列曲線をTakensの理論に基づき4次元の位相空間に埋込みを行い、3次元の位相空間へ投影し、ストレンジアトラクターの再構築を行っ た。
従来は人工心臓には複雑な制御はいらないのではないかという仮説が欧米等を中心に提唱されてきており、例えば最も単純化された制御と言うべきかもし れないいわゆるスターリンの法則に則った自動制御システムなどが、その単純な制御アルゴリズム故に広く用いられる趨勢にある。しかしながらこのような単純 な制御では、例えば中心静脈圧の上昇などの病態生理学的な変化には対応できないと言う報告も行われている。すなわち、中心静脈圧の上昇に合わせて心拍出量 を増加させても、一時的に中心静脈圧が下がっても、更にまたしばらくするとじわじわと圧が上昇するという悪循環に陥り、やがては心拍出量が通常の1.5倍 から2倍にも増加していわゆる「過剰心拍出量症候群」に陥るという報告である。これらに報告に呼応して、前負荷ではなく後負荷、すなわち大動脈圧の方に注 目したのは、ペンシルバニア大学の人工心臓開発チームである。彼らは大動脈圧が一定になるような駆動制御方式を考案し、世界で初めて一年を越える人工心臓 動物の生存実験に成功した。しかしながらこの方式でも、中心静脈圧の上昇のような現象には対応できないと言う報告もなされてはいるが、簡便なアルゴリズム で実現可能な実用的な自動制御システムである。これらに対して、人工心臓の制御を埋め込まれた動物の循環制御系にゆだねようという考えから、東京大学を中 心に末梢血管抵抗に注目した「1/R制御」という概念も提案され、斯界の注目をあびている。これは末梢血管抵抗値の逆数を利用することにより、人工心臓の 制御用入力とする方法論である。血管抵抗値は大動脈圧、中心静脈圧の差分から末梢循環における潅流圧を求め、電磁流量計で計測された人工心臓拍出量から、 オームの法則で抵抗値を算出する。この制御の方法論で山羊の長期生存実験を行っているうちに、末梢血管抵抗で人工心臓を制御する方法論を学び、やがて自分 で人工心臓を制御するようになるという、ある意味での一種のバイオフィードバックを形成する大変興味深い制御理論である。この制御方式の採用によって、東 京大学では人工心臓長期生存の世界記録を亢進し、また中心静脈圧の上昇などの病態生理学的な変化も観察されなかったと報告している。
何故であろうか?
従来の駆動制御理論による拍出流量時系列曲線のアトラクターを観察すると、この制御では左右のバランス制御を基本に右房圧左房圧をバランスし、肺鬱 血を予防する制御が行われており、さらに人工心臓の過剰心拍出量を抑制するための制御が行われているが、これと比較して1/R制御による人工心臓拍出流量 時系列曲線のアトラクターを観察すると一見して幅広い形に変化しており、人工心臓拍出流量曲線にゆらぎの成分が加味されていることが推測される。このゆら ぎ成分について詳細に検討するために、スペクトル解析、フラクタル次元解析、相関次元解析、リアプノフ指数解析、ボックスカウンティングによるリターン マップ解析、KSエントロピー計測など多くの非線形力学などの方法論を駆使して検討を加えた。
例えば、スペクトル解析の方法論による解析結果によって、アトラクターの幅の広さは、種々の周波数のゆらぎ成分の複合によって発生していることが示 唆されていた。また興味深い結果もいろいろと得られている。例えば1/Rの制御アルゴリズムは約六秒間の血行動態時系列曲線の移動平均を元に目標心拍出量 を計算し、目標拍動数を設定している。これは、呼吸性の周期性変動よりもおそく、Mayer wave変動成分よりも早い周期となる。1/Rの拍出量スペクトルには、この自然界には存在しない周期性変動が発生しているという興味深い観察結果が得ら れている。これは、この観察結果がMayer wave変動成分や呼吸性変動成分の発生機序にも敷衍できうる可能性を保持している点で、生体におけるゆらぎ成分の存在を説明する点で非常に意義深い観察 結果であるものと思われる。すなわち生体の周期性ゆらぎ成分もまた、この1/R制御アルゴリズムのような制御機構の存在が前提となって発生している可能性 があるという仮説の提示である。
これに対して我々はさらにこの移動平均時間を変化させ、より鋭敏な一拍毎の1/R制御アルゴリズムも構築し、実験してみたところ、この制御では呼吸 性の血行動態時系列曲線のゆらぎが極端なまでに増幅され、制御が発散するという現象も観察された。これは、1/fゆらぎやいくつかの周期性変動成分に分散 していたゆらぎ成分が、一拍毎の1/R制御によって呼吸性変動成分が立ち上がることにより本来カオス的ダイナミクスを保持して安定していた循環動態がリ ミットサイクル化して破綻する現象とも考えられ、循環動態におけるカオス的ダイナミクスの持つ機能的な意義を考察する上でも興味深い結果と考えられた。こ の現象は中枢神経系における代表的な高次神経活動である認識や記憶における脳神経活動に発見されているカオス的ダイナミクスの機能的な意義と考え併せるこ とにより、より興味深い結果に敷衍される可能性も考えられ、生体における普遍的な情報処理機構のアルゴリズムを考える上でも面白い。
スペクトル解析は周期性変動成分の定量的解析には非常に有用な方法論ではあるが、本研究では更に全体論的な非線形動特性を追求するべくストレンジア トラクターを再構築して解析に用いている。アトラクターの定量的な評価のために種々の方法論を用いて追求した。例えばアトラクターの次元解析において頻用 されている相関次元解析では、計測時間に限界があるのであまり極端に埋め込み次元をあげられないと言う限界はあるものの、1/R制御では単なる左右バラン スをとった制御と比較すると、拍出量アトラクターの有意の相関次元の増加が観察されている。また多くの力学系の関与が自明である循環制御系の解析において 相関次元をいくつまで上げても限界があることは明らかなので、逆に2次元平面にリターンマップを作成し、ボックスカウンティングによってフラクタル次元を 求めたところ、やはり同様に1/R制御におけるフラクタル次元の増加が観察されていた。
更にストレンジアトラクターでは、位相空間内で隣り合った軌道は時間軸に沿って離れていくことが知られているが、この軌道の分離はリアプノフ指数な どで定量化され、ここからKSエントロピーやリアプノフ次元も計算される。これらの情報量の解析の結果はやはり1/R制御における循環動態の持つエントロ ピーの増加を示している。フラクタル科学における次元の計算法にはリアプノフ次元、相関次元、情報量次元などの多くのアルゴリズムが知られているが、数学 的に理想的な状態においては、どの計算法を用いても、求められた次元は基本的には一致することが知られている。ここで例えば情報量次元などは情報量エント ロピーの項を持つ。従って、1/R制御による制御アルゴリズムへの生体情報の入力が基本的に非線形力学系におけるダイナミクスに変化を与え、情報量エント ロピーの増加をもたらしている可能性が考えられるものと思われた。
従って本研究で明らかになったことの一つは、人工心臓置換動物における加齢現象に相当する病態生理学的な変化、例えば中心静脈圧の上昇等をもたらさ ない人工心臓制御アルゴリズム、例えば1/R制御、においては、フラクタル次元やKSエントロピー等の増加にような非線形ダイナミクスの変化が観察されて いる。ということである。人工心臓置換動物においては自然心臓の循環を維持した動物と比較してカオス的なダイナミクスを支配する非線形動特性の単純化が明 らかなことは東北大学における両心バイパス実験でも明らかになっており、ここで観察された1/R制御における非線形ダイナミクスの変化は、人工心臓循環を 自然心臓循環の非線形ダイナミクスに近づけているという可能性も考えられる。
もちろん様々な実験条件の拘束による問題点があることは明らかで、軽々しく結論に結びつけることは危険ではあることは十分承知の上で、あえてこの結 果を単純に素直に観察すれば、下記の結論が得られることも考えられる。すなわち、人工心臓症候群でシミュレートされるような病態生理学的な変化を加齢現象 として考えれば、これは人工心臓による循環性制御の持つ非線形力学系の単純化に起因している。従って、例えば、末梢血管抵抗のような生体情報を人工心臓制 御アルゴリズムに入力することで、加齢に相当するような病態生理学的な変化が抑えられる可能性があるということである。
これを更に敷衍すれば、生体における加齢現象全体を制御系の非線形ダイナミクスの単純化、と言う風に解釈できる可能性を保持しており、これは生体の 制御システムの劣化がすなわち加齢と言う現象に結びつくという視点が提示される。従って劣化した制御系をある種の人工臓器で制御してやれば、ある程度加齢 現象を制御できる可能性をもてる、と言う概念からも非常に興味深い結果と推察された。
機械における故障の発生率は、加齢現象における疾患の発生と相関があることが広く知られており、注目されている。
ここで重要なのは、初期故障と、末期の磨耗故障の発生である。
これらは、それぞれ新生児の死亡率と、成人病の死亡率に対応すると報告されてきた。
この興味深い現象は「人間は機械である」という説の根拠の一つとして広く理解されている。
この現象と本研究の結果を合わせて考えると非常に興味深いものがある。
例えば下記のような仮説が提出される。すなわち、生体の制御系という機械部品に磨耗故障が発生すると、心臓血管系における循環動態の非線形力学系の変化を介して、加齢現象が発現するということである。
生体における制御系の故障は非線形ダイナミクスの変化をもたらし、力学系の単純化をもたらす。
例えば非線形力学系における決定論的カオスがリミットサイクルのダイナミクスに変化し、カタストロフに至るような課程である。
ここではカオス理論とカタストロフの関与を考えていくことも、加齢現象の成因を考察していく上で、興味深い可能性の一つとして残っていくことも考えられるものと思われた。

2006年4月8日土曜日

information technology medical field


インフォメーションテクノロジーのメディカルフィールドへの新展開

ITを医学用語に訳せば、医用生体工学ということになる。
インフォメーションテクノロジーは、情報技術等と直訳されているが、様々な情報を処理するテクノロジーの総称であり、コンピュータテクノロジーやインターネット技術、マルチメディアにおけるバーチャルリアリティのような信号処理等が代表的なものであるとされる。
このような情報処理技術は、医用電子工学の研究分野の発足と同時に研究されてきたものでもある。古くはMEと言えば、心電図や脳波を思い浮かべる 方々が多かったことからも分かるように、生体時系列情報の信号処理技術は医用生体工学における大きな柱であったし、現在もカオスやフラクタルなどの非線形 力学理論の応用に代表されるように、ITそのもの、情報処理技術そのものが、ME研究の中心に座し続けている。
より精度の高い生体情報を、より非侵襲に、という医学サイドからの要求が常に続けられることが自明である以上は、ITは今後も医用生体工学の重要な 部分を担い続けることは間違いない。森首相の就任とともに突然マスコミを賑わすに至った観のあるITという単語を見て、「何を今更騒いでいるのだろう?」 と、一週遅れのランナーを見るかのような感慨を抱いた医用生体工学領域の研究者は多い。
IT関係の医用生体工学技術と言えば、バーチャルリアリティ関連の手術支援システムがまず話題になる。
東京女子医大では以前から脳外科手術におけるバーチャルリアリティの応用を進めているほか、東北大学でも近年注目を浴びる心血管インターベンション 手術の領域に置いて「バーチャルPTCA」のようなシステムの開発を進めている。このような、IT技術の応用によって手術成績が飛躍的に向上する可能性は 大いに期待されているし、欧米でも積極的な開発が進められている。
例えば1998年には、マスタースレーブマニュピュレータの開発によって、インテューティブサージカル社からコンピュータ制御ロボット遠隔手術装置 「ダ・ビンチ」の臨床応用が欧米で開始されている。 このシステムでは,術者の動作に対するロボットの動きを5対1程度まで縮小することが可能であり,また術者の生理的振動がロボットでは消失するため,縫 合・結紮などの微細な手術操作は,直視下に行なうよりはるかに容易になると報告されている。また1999年には医療用ロボット開発のコンピューター・モー ション社が、外科手術ロボット「ゼウス」を使った内視鏡による冠動脈バイパス手術に世界で初めて成功したと発表したのは記憶に新しい。近年富に飛躍的に切 開創が小さくなってきた外科学領域であるが、これまでには、例えミニマリーインベーシブサージェリーと言えども、心臓の手術では、30センチから40セン チの胸部切開が必要とされたが、最近のロボットサージェリーでは鉛筆の太さ程度のいくつかの切開を行うことで開心手術が可能となる。患者の負担を大幅に軽 減し、早期に回復させられるというこのシステムは、コンピュータ制御で細かく正確に動かせる3本のマジックハンドを持ち、患部の状況を2D、3Dで画面表 示させ、動きを確認しながら手術ができるようになっている。
競争があるのは欧米の医学界の活力源になっているのかも知れないが、2000年に「ダ・ビンチ」システムが、米食品医薬品局(FDA)が認可される と、ライバルの医療用ロボット会社、コンピューター・モーション社から特許権を侵害しているとして訴えられている。このシステムは113名の患者で試験さ れ、その成果を通常の手術を受けた132名の患者と比較したところロボットシステムが通常と同じだけの安全性と効果を生むことが証明されたとFDAは判断 した。ロボットシステムを使った手術のほうが40~50分長く時間がかかったが、それはこの新技術に対する医師の経験不足のせいもあるとFDAは認識して いる。対してコンピューター・モーション社は、ロボット手術システム8種の特許を持っているので、インテューティブ社が「ダ・ビンチ」等で特許を侵害して いると主張し、特許権侵害訴訟を起こした。特許権を扱う弁護士筋からはインテューティブ社がコンピューター・モーション社にライセンス料を支払うか、ダ・ ビンチを作り直すかしなければならないかもしれないと言う談話も出されている。欧米では莫大な市場を形成する医療業界は当然特許権その他の戦場となり得る 運命にあり、権利関係や特許の裁判がこの分野の発展の妨げにならないことを切に祈ってやまないものである。日本でも現在は東北大学を初め多くの施設に置い てこれらのロボットシステムの臨床応用が始まる段階であり、今年度の外科学総会では多くの手術ロボットシステムが一堂に介して「サージカル・シアター」で の展示が予定されている。
医用生体工学における外科学分野への応用と言えば、いの一番に上げられるのが人工臓器の開発だが、ミレニアムの終わりになって人工心臓の分野における時代を画するエポックメイキングとも言える飛躍的進歩が認められた。
経皮エネルギー伝送システムを内蔵した完全埋め込み型拍動流補助人工心臓の臨床応用と、アキシャルフロー型無拍動補助人工心臓の臨床治験である。
人工心臓は、心臓を切除して埋め込みを行う完全置換型全人工心臓と、心臓の働きの一部を補う補助人工心臓に分類されることはご存じの読者も多いと思 われるが、現在のところ完全人工心臓は空気圧駆動型の人工心臓が欧米の一部でブリッジユースに用いられているだけである。エネルギーも含めた電磁駆動型の 人工心臓は現在アメリカではペンシルバニア州立大学とテキサス心臓研究所の二カ所で臨床を目的にした開発研究が進められており、ペンシルバニア大学では臨 床前研究に入ったと伝えられている。日本でも、東京大学や国立循環器病センターで開発が進められている完全置換型全人工心臓は斯界でも脚光を浴びている。 東京大学で開発が進められる波動ポンプは、回転運動を拍動流に変換するユニークな機能を持つ全くのオリジナルな人工心臓で、駆動原理そのものが世界に類例 を見ない点でも注目に値する。現在は数ヶ月オーダーの慢性動物実験に成功しており、今後更に耐久性その他を検討して臨床へのアプリケーションが望まれる。 対して国立循環器病センターのシステムは、日本人も狭い胸に全てのシステムを埋め込むことは不可能であるという現実的な認識に基づいて、駆動装置を分離し て腹に埋め込むというコンセプトを具現化した。現在までに周辺機器の洗練化も進めており、インテグレートしたシステムとしては高い完成度を誇っている。
補助人工心臓としては、日本でも東北大学の振動流ポンプ、北海道大学のバルボポンプ、機械技術研究所の遠心ポンプやテルモの磁気浮上ポンプ等は有力 であるが、今年ペンシルバニア大学から報告された「ライオンハート」は、電磁誘導を応用した経皮エネルギー伝送システムを初めて臨床応用した点で注目に値 する。
ペースメーカーとは異なって、電池ではとうていカバーできないような莫大なエネルギーを必要とする人工心臓は、原子力のような高効率のエネルギーを 応用しない限りは外部からの電力の供給が不可欠である。現在まで臨床応用されてきた埋め込み型と名付けられた拍動型補助人工心臓であるノバコールやハート メイト等のシステムも、電力は電線から供給されており、真の意味での完全埋め込み型とは言えず、 QOL の観点からも最適とは言い難い点を残していた。20世紀も終わりになってついに臨床応用されたライオンハートは、従来と同様の拍動型補助人工心臓でありな がら、電磁誘導を用いてエネルギーは体外から供給される。この点で、初めて完全埋め込み型の人工心臓が臨床に供給されたと言い得る。ペンシルバニア大学で は完全埋め込み型の完全置換型全人工心臓の開発に数十年の歴史を保持しており、完全置換型人工心臓へも応用できる経皮エネルギー伝送システムが、まず埋め 込み型拍動流補助人工心臓のためのシステムとして臨床応用されたというスタイルである。
欧米で開発された人工心臓は一般的に言って日本人には大きすぎ重すぎると言う点が否めないが、拍動流を選択する限りポンピングチャンバー・プラス・ 駆動メカニズムとなるので小型軽量化には限界がある。そこで注目されるのが無拍動流人工心臓である。工学的にはモータの回転運動をそのまま拍出に変換する のが最適であり、かかる点からは遠心ポンプあるいは軸流ポンプが小型化には理想的である。この場合、無拍動、すなわち、脈のない人工心臓と言うことになる が、補助人工心臓では自身の心臓の拍動があるのでこの点の問題は少ないと考えられる。
今年の国際ロータリーポンプ学会で注目を集めたのは、三つの軸流ポンプの臨床治験の開始である。ジャービック2000、マイクロメド・ドベイキーポ ンプ、そして、ハートメート2の三つの軸流ポンプは全て心尖部脱血、大動脈送血で臨床応用され、心臓移植へのブリッジユースや重症心不全からのリカバリを 目的に欧米で既に数十例の臨床が報告され、特に日本からの聴衆を驚愕させた。ジャービック2000もドベイキーポンプもその開発初期から日本からの留学生 が深く研究に関わってきていたが、これだけ早い臨床応用の広がりは日本ではとうてい予測不可能であったと思われる。これらの軸流ポンプはいわば、船のスク リューを人工心臓として応用したような形態をとっており、心臓が単なる機械的ポンプで補助できるという点を極限まで押し進めたような形式である。補助心臓 として用いられていることもあり、勿論、全く拍動はない。このような無拍動埋め込み式補助人工心臓は原理的に小型軽量化が可能であり、日本人のような体格 の小さな東洋人への埋め込みには極めて有利である。新世紀を迎えようとする現在のエポックメイキングな出来事と思われる。
現在日本でも無拍動の人工心臓はいくつかの施設で開発されており、テルモ社のシステムは動物実験の長期生存では世界最高記録を更新し、臨床応用が可 能なレベルに達している。しかしながら日本で治験を行うに当たっては、政府による規制が余りにも厳しく、制度上の改革が必須である。空気圧駆動式補助人工 心臓においても、日本ゼオン、東洋紡と、世界最高のレベルの補助人工心臓が開発されながら、保険診療の適応になるのに時間がかかりすぎ、更には保険を通っ た後も制約が厳しすぎて普及の大きな妨げになったのは記憶に新しい。保険が通らない医療は現在の日本の医療現場では「キリシタン禁止令」と全く変わらない 現実的な禁止令であるとしか言いようがない。本邦で開発された優秀な空気圧補助人工心臓の市場が、日本の保険制度によって実質的につぶされたとしか言えな い状況では、ほぼ現在でも世界最高レベルに達しているテルモの完全埋め込み型磁気浮上ポンプが、どのような臨床試験の経過を辿るのかは厳密に見守って行か なくてはならないものと思われる。日本で開発が進められた優秀な人工心臓が、欧米でしか使えないと言う状況では話にならない。筆者らは、国際人工臓器学会 を預かる理事長の立場としても、現在の日本の状況には警鐘を鳴らしておきたい。
末期的な心不全に対してはこれまでにも補助人工心臓等のようにポンプで循環を補助する治療の他に、バチスタ手術のように心筋を切除する術式も試みら れてきた。2000年度に至って、ミオスプリントという新しい人工臓器を用いた全く新しい手術治療の方法論が考案されクリーブランドクリニックなどにおい て既に臨床に移され始めているので、今年度の臨床医学における新しい進歩として触れておきたい。バチスタ手術は左室心筋の一部を切除して左室の形態を変形 させ心機能を改善させることを計る手術であるが、ミオスプリントを用いる方法論は、いわば「ネジ止めバチスタ?」とも呼ぶべき手術で、左室の中央部を中隔 側に寄せるために、紐状のデバイスを用いてアンカリングする。これによって左室内の容量は約半分に減少したものが二カ所できる計算になり。バチスタのよう な心室形状の形成が行われると言うものである。バチスタ手術に比べれば圧倒的に手術手技が簡単であり、しかも二カ所で収縮することになるので、原理的には 二倍近い効果の期待されうる点から今後臨床応用が広まっていくことも考えられる。2000年のトピックと言い得るかも知れない。
人工臓器のような体のパーツを代用臓器として開発する立場もあれば、生体の全体の共同に注目して情報処理を追求する立場もあり得ることは指摘されて久しい。
このようなアプローチは、戦後すぐにサイバネティクスの研究として開始され、システムにおける情報の流れを定量化して検討するためには、ジップの情 報量理論やマンデルブロのフラクタル次元の理論等が注目され、最近ではカオス理論との関連性も取りざたされてきた。そもそも高等生物において認められるよ うな精密かつ多様な機能の発現は、内部環境の恒常性(ホメオスターシス)に負うところ大きいことは自明の事実として知られてきており、心血管系を中心とす る循環系もまた然りである。生体内の様々な系の中に置いても、心臓血管系は酸素の運搬や老廃物の排出など物質の移動を本質としているので、ダイナミクスな 観点が特に重要となる。
ここで有効になるのは従来の恒常性、ホメソスタシスのような静的な目標指数を保持する概念ではなく、もっとダイナミズムに着目したホメオカオス、ホ メオダイナミクスの理論になってくることは明らかであるものと考えられる。例えば、心臓血管系のような循環システムにおける物質の移動は、細胞のレベルで は分子単位で、また、臓器や個体のレベルでは種々の生体シグナルを用いて多重に、更には階層的に制御されているので、循環系のようなダイナミックなシステ ムを理解するためには、分子生物学的から高次のレベルに至る整合性のとれたホメオダイナミクス解析が不可欠になってくるものと考えられる。
このようなアプローチ法は、解析的なゲノムプロジェクトに対して統合性を主眼とするフィジオーム呼ばれ、注目されつつある。
フィジオームとは、physiome  (physio=life or natu re, ome=as a whole entity)という語彙の要素から構成された造語であり、生体の機能を構成的に解析し理解しようとするものである。ミレニアムも終わりに向かう1997 年にNIHに生体工学協会(BECON)が設立された背景には、医学や生物学と生体工学のとの境界が消滅しつつあるという認識がある。NIHでは、 BECONを中心にゲノムのような細かい要素に分解するアプローチに対応するものとして、フィジオームプロジェクトに力を入れ、「ゲノムからフィジオー ム」を大きな柱としていると伝えられる。フィジオームプロジェクトは、来るべき高齢化社会において、癌と並んで重要な医学的課題である循環器病の診断・治 療・予防に大きく貢献することが期待され、社会的意義の上からもその重要性が認識されてきている。
2000年度のトピックとしては、このような諸外国の研究支援状況を背景にして、日本学術会議医用生体工学研究連絡会が医用生体工学研究所設立準備 委員会を設けて審議してきた報告書がまとめられ、対外報告として了承されたことは、日本におけるフィジオームのマイルストーンとなっていくものと考えられ る。
思えば、ニュートン力学の時代から、科学とは自然現象の本質を追求することであったが、様々な運動の中の物体の運動を取り上げ、その本質を、質量と 換算して運動方程式に記述し、真理を追究する方法論は、質量の運動という1つの要素を解析するのに非常に有効であったことは論を待たない。しかしながら、 生命現象を解析的に追求し、果ては遺伝子1つ1つの機能を解明したからと言って、それで生命現象が分かったことになるかというと余りにも批判も多いことは 否めない。
新しいミレニアムともなる新世紀を迎えるに当たって、医用生体工学に置いても解析的な研究から統合的な研究へと方向転換する時期に入っているのかも知れない。
文献
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  40. 梶谷文彦:BME14:5-10,2000.
更新日時:2006/04/09 22:41:58
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2006年4月6日木曜日


人は何故攻撃するのか?

怒りっぽい貴方に・・・

パーソナリティの個性としての攻撃性は、病態生理学的な反応及び行動との関連性において重要な問題である。
ジョセフソンやブッシュマンは、性格的に高い攻撃性を保持する対象者の方が、メディアにおける暴力映像が攻撃的な行動を促進しやすい傾向にあることを実験的に証明している。(1,2) これは、マルティメディア社会に置ける重要な知見として特筆される。
すなわち個々の高次脳神経機能を表彰する心理スケーリングで表される性格特性が、個々人の攻撃的行動を規定しているのである。
フリードマンとローゼンスタインのタイプA行動パターンの研究は、冠動脈疾患の発生と性格分類に大きな貢献をなしたが、近年のメガスタディでは否定 的な知見も散見されるようになってきている。最近では、このタイプA行動パターンの下位尺度とも言える怒り、敵意、攻撃性の三つがより冠動脈疾患の相関す るという報告も行われるようになった。
  • 怒り(Anger)
  • 敵意(Hostility)
  • 攻撃性(aggressiveness)
の三つは、AHAとしてまとめ表されるが、
  • 苛立ちや劇高と言った情動的側面としての怒り、
  • 悪意や否定的味方、態度といった認知的側面としての敵意=ホスティリティ
  • 人に攻撃を加える行動的側面としての攻撃性。
として、厳密には分類されている(湯川:心理測定尺度2)
そもそも日本のA型行動は「仕事中毒」が多く、会社などへの連帯感や責任感から断わることが苦手で、自己犠牲をして仕事を抱え込むためと言われる。 その上、日本人は協調性を保つために「敵意や攻撃性」を表わすことが少なく、その感情を抑制するのが特徴である。しかし、この抑制こそが病態生理学的に危 険なのである。
A型行動パターンでは些細なストレスがかかっても、交感神経がすぐ活発化して、血圧や心拍数が上昇したり、冠動脈の内膜を傷つけたりして、動脈硬化 を引き起こす。昂進した交感神経は内分泌系の副腎に作用し、コレステロールや中性脂肪を増加させたり、血液の血小板に働き血管のスパスムスや血小板凝集を 引き起こすのである。
加齢医学研究所に置ける研究では、タイプA行動パターンにおいて、有意の血中コレステロール濃度の上昇を認めている(3)。これらの症例では薬剤に 置ける反応性には有意の差を認めなかったが、性格分類心理スケーリングで規定されるところの高次脳神経機能特性と代謝の関連性を考える上で興味深い結果と 思われる。
高次脳神経機能を表す心理スケーリング尺度と、行動パターンや疾患の病態生理学的変化は高齢化社会を迎えますます重要になりつつある。

References
  1. Josephson WL. : Television violence and children's aggression: testing the priming, social script, and disinhibition predictions. J Pers Soc Psychol. 1987 Nov;53(5):882-90.
  2. Bushman BJ. : Moderating role of trait aggressiveness in the effects of violent media on aggression. J Pers Soc Psychol. 1995 Nov;69(5):950-60.
  3. Shizuka K, Yambe T, Fukudo S, Nitta S. : Type A behaviour pattern and hypercholesterolemia in elder patients. Nippon Ronen Igakkai Zasshi. 2000 Jun;37(6):486-9.
更新日時:2006/04/06 18:21:01
キーワード:
参照:[Welcome Professor Yambe's Home Page!!

2006年2月15日水曜日

人工心臓実験


ロータリーポンプEvaHeart動物実験

心停止下の無拍動左心補助循環 EvaHeart動物実験

Yamazak.jpg 東北大学では、日本中で開発された様々な人工心臓、人工内臓の動物実験が行われており、日本における様々な人工内臓開発におけるセンター的な役割を果たしています。
北海道大学と慶応大学で開発されたバルボポンプや、東京大学で開発された波動ポンプ、早稲田大学で開発されたボルテックスポンプ、東京女子医科大学で開発されたEvaHeartなどの動物実験を行い、臨床への橋渡しを試みています。人工心臓だけでなく、人工括約筋や人工食道のような人工内臓の開発研究も行われています。
最近、無拍動型の補助人工心臓の臨床応用が注目されています。スクリュー型の軸流ポンプや、回転型のロータリーポンプは既に欧米では臨床応用され、症例数を伸ばしています。
日本でも、軸流ポンプとしては、北海道大学と慶応大学が協同でバルボポンプと言うシステム開発を試みていますし、回転型のポンプでもテルモのデュラハートはドイツで臨床応用され、サンメディカルのEvaHeartも国内での臨床試験体制に入りました。この他、東京医科歯科大学、茨城大学、産総研や国立循環器病センターなどでも、様々な無拍動ポンプシステムの開発が進められています。
日本人は欧米人と比べて小柄なのですから、どうしても小型の補助人工心臓が必要です。
こういう細かいものを作らせたら、本来なら日本の独壇場になるはずです。 がんばれニッポン!
補助人工心臓は本来、心臓に悪い方に埋め込まれるのわけですから、補助心臓で全身の循環を維持していても不幸にして致死的な不整脈を合併してしまう患者様も散見されます。 そこで東北大学では心停止下における補助循環の実験を 行ってきました。空気圧駆動型の補助人工心臓では、心停止状態でもある程度は左心補助人工心臓のみで循環が維持できることなどを研究してきました。 現在 は、国産の超小型ロータリーポンプとして注目されエバハートなどを用いて、例え心停止状態においても左心室の補助循環のみで全身の循環が維持できないか研 究を進めています。
現在、エバハートの一例目の臨床例が成功裏に進んでいます。
日本で開発された埋め込み型ロータリーポンプが日本で臨床応用されたのは初めてです。
ROMの皆様も、開発中の人工内臓などのアイデアがありましたら、是非、東北大学との共同研究を進めましょう。東北大学では現在、医工連携や、産学共同研究を力強く進めており、加齢医学研究所は広く門戸を開いて、共同研究の扉を開けてお待ちしています。
更新日時:2006/02/15 15:07:39

2006年2月8日水曜日

smolensk


スモレンスクステートメディカルアカデミーを 答礼訪問してまいりました。

image002.jpg smolensk state medical academy

加齢医学研究所、帯刀所長、本郷事務長の格別のご高配を持ちまして、2003年7月18日に、東北大学加齢医学研究所とスモレンスクステートメディカルアカデミー(SSMA)の学術協定が締結されました。
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調印式での記念写真
協定のために、SSMAからビクターAミラーゲン副学長と、ニコライAファーマシューク副学長、ユーリAコバレフ助教授などが来日されました。
今回は答礼のために、2003年8月29日、加齢医学研究所から仁田新一教授、山家智之助教授、白石泰之博士特別研究員、王慶田COE特別研究員が、空路、SSMAを訪問して参りました。このプロジェクトは競争的研究資金による日露協同動脈硬化研究計画等によるものです。
スモレンスクはモスクワの西約300km、ヨーロッパとモスクワの中間点のような位置にあるスモレンスク大公国の古都で、SSMAはモスクワの西の唯一の医師養成機関、医学研究機関です。
最初に学長室を訪問いたしましたが、学長のプレシコフ教授から歓迎の挨拶があり、SSMAの歴史と伝統のご紹介がありました。
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プレシコフ学長
SSMAは、七つの学部と、約二十カ国から来た約三千人の学生を擁し、約450人の教授、助教授などの教官が在籍する大きな医科大学で、三つの研究 所と、38の専門大学院を保持しているそうです。57の講座と、37のクリニックに、6300のベッドを保持するロシア国内でも有数のベッド数を誇る病院 でもあるそうでスモレンスク地区の基幹的医療機関を構成しています。
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学長室での懇談
その後、お互いの大学の情報交換があり、歓迎の昼食会へ移りました。
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学長室での記念写真
それにしても、昼間からビールウオッカワインの攻勢には驚きました。スモレンスクでは58%の人々が心血管イベントで死亡し、男性の平均寿命が五十 九歳になってしまったそうですが、これは、やはり生活習慣病研究、動脈硬化研究が不可欠な国だなあ。と、認識を新たにしました。
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歓迎昼食会
昼食の後は、日露協同動脈硬化学術会議となり、SSMAのミラーゲン副総長などにより、SSMAにおける動脈硬化研究の進歩、東北大学加齢研から山 家助教授より、日露共同医工学研究の提案などが行われ、日ソ貿易の磯和さんが通訳を手伝ってくださったこともあり、スムーズにディスカッションが行われま した。
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共同研究学術会議
夕刻には、SSMAの厚意で観光案内もセッティングしていただき、スモレンスクの中心、ウスペニアンカテドラルや、ナポレオンを打ち破った古戦場 に、フランス軍を打ち破ったクツゾフ将軍の銅像など、また、交通の要衝にあるがゆえに、民族の往復に伴って常に激戦の地域ならざるを得なかったスモレンス クの市街を守るフォートレスウオールなど、名跡史跡の各所を案内していただきました。
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ウスペニアンカテドラル
ちょっと一日では大忙しで案内していただいた感じで、次回はもっとゆっくり訪問してほしいとのことです。国際ロータリブラッドポンプ学会と、欧州人工臓器学会の日程の関連でロシアでの日程が二日間に限定されたのが残念です。
夕方はもちろん、プレシコフ学長を囲んで歓迎会が行われましたが、これが七時から十二時まで、乾杯の連続で続いたのには疲れました。
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歓迎懇親会
ロシアの風習かも知れませんが、どなたかが歓迎の御挨拶をすると、乾杯と言う感じで、延々と乾杯が繰り返されます。流石にウオッカは勘弁してもらい ましたが、正式にこれでウオッカを一回の挨拶ごとに開けていたら大変なことになってしまいます。ビールワインだけでも十二分にアルコール濃度があがった感 じでしたが、いい加減血中濃度があがったところで、アコーデオン(バンドネオンかな?)にあわせてロシア民謡の合唱が続き、更にメートルが上がったところ で、今度は民族舞踏でいきなり踊らされてふらふらになりました。
アカデミーを挙げて大いに歓迎していただいたのは、痛いほどよくわかりましたが、日本人の代謝能力ではとても追いつけません。
プレシコフ学長のお話では「学長の仕事は、脳は一つでよいが、肝臓は三つ必要だ」と、言うことでしたが、これでは全くその通りですね。
動脈硬化共同研究、フィールド研究のほか、プレシコフ学長のラボからはロシアにしかないと言う?プラズマメスの紹介をスタッフにしていただきましたが、興味深いお話なので幅広い分野でコラボレーションの実が挙がれば。と、願っております。
次回はもう少しお互いのデータが出揃ったところで、学術的な展開を図りながら、もう少しやわらかいドリンクで懇親したいものです。
更新日時:2006/02/06 00:34:41

2006年2月7日火曜日

人工括約筋


人工括約筋! 振興調整費の大型予算獲得に成功!

東北大学の人工括約筋プロジェクトは、文部科学省の大型研究予算、振興調整費に採択されました。億単位の大型予算で、人工括約筋の具現化を目指します。
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人工括約筋山羊
人工肛門の患者様のための、従来は不可能であった排便のコントロールのための具現化する全く新しい人工臓器の開発を目標に精力的な開発研究をすすめます。
研究代表者は、流体科学研究所の羅助手で、加齢医学研究所の劉君、段君がポスドクとして採用されることになり、括約筋の動物実験をサポートすることになりました。
これにあわせて加齢医学研究所の動物実験研究施設を改造し、山羊用の研究ケージに監視用テレビカメラが内蔵され、どこからでも動物実験の管理が可能 になります。最終的には患者様に埋め込まれた後もインターネットセキュリティシステムを駆使した人工臓器のリモート管理を目指しています。
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加齢医学研究所慢性動物実験施設
三年間の研究計画によって括約筋の基本設計をリファインすると同時に、日本人工臓器学会などの学術組織ともタイアップして臨床前試験へ進展させ、具体的な企業化も目指します。
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人工心筋山羊の「ななこちゃん」と、人工肛門山羊の「ももこちゃん」
左から白石博士研究員、伊藤秘書、山家助教授、王博士研究員
現在、既に海外のベンチャー企業からも問い合わせが相次ぎ、日本発の全く新しい人工臓器として発展が期待されます。
更新日時:2006/02/07 14:52:13
キーワード:
参照:[news

スモレンスクステートメディカルアカデミー


加齢医学研究所、スモレンスクステートメディカルアカデミーと 学術協定を締結

保健医療の統計において、大変興味深い現象が進行している地域があります。
ロシアでは、90年代初頭から平均寿命が年々減少していますが、これは戦争がない時期の欧米においては歴史上例がない極めて興味深い現象です。様々 な原因が考えられますが、総人口における約55%が心血管イベントで死亡すると言う統計は重要です。また経済上の問題により高額な医療費が要求される薬物 療法が制限されている要因も大きいものと考えられます。
図にロシアにおける千人あたりの死亡率と出生率を提示します。死亡率が出生率を上回り、人口が減少に転じています。
image002.jpg
図1 ロシアにおける出生率死亡率の年次変化
さて、翻って本邦においても食生活の欧米化に伴い、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患が増加傾向にあります。これらの心血管 イベントの発生は、生命予後を制限するだけでなく、高齢者のQOLを大きく妨げています。更に重要なのは経済的な問題です。国民経済における縮小傾向は、 高齢化社会の到来に伴って近い将来に予測される人口の減少が重要なファクターとなって行く事は容易に予見できます。
この三月に施行された国民医療費の三割負担が、病院医院の外来診療に大きな影響を与えたことは、医療現場の前線で外来に携わる医師の実感です。今回は三割負担でしたが、保健医療が財政を圧迫しつつければ四割五割と進んでいく可能性も否定しきれないものと考えられます。
すなわち、近い将来に、人類史上例がないスピードで人口構成の高齢化が進み、かつ、医療経済の限界が目の前に迫っているというのがわが国の現実です。経済の破綻が医療現場を直撃することは、ロシアの現実が証明しています。
地域によっては、「薬が高いので・・・」という患者からの声が、既に外来の担当医を困惑させ始めています。確かに長期予後に効果のあることがメガス タディにより示唆されている新薬でも、患者さんが経済的に購入できなければどうしようもありません。このような経済問題は、既に現在ロシアで進行している 現象でありますし、今後日本で到来することが予測される現実とも言えるかもしれません。
両国における動脈硬化などに関する保健医療の研究はある意味で愁眉の急とも言えるでしょう。経済学的により生命予後に優れた薬剤インターベンション へ向かわなければ国家経済がそれを負担しきれないことは、今年度の保健医療の改正でも明らかです。より安価な薬剤でより大きな統計学的な効果が望まれてい くのは自明でしょう。そのためには、動脈硬化の長期予後に関する多国間の統計学的研究は不可欠になって行きます。何より、既に現場の患者の声がそれを証明 しています。
そこで、日露協同で動脈硬化研究へ着手しようという発想に至りました。
スモレンスクは、モスクワの西約300kmの中堅都市であり、スモレンスクステートメディカルアカデミーはロシアの西側領域における唯一の医師養成 期間、医学研究機関です。ちょうど帝国大学時代の東北帝国大学医科大学のような存在に当たるとも言えるかもしれません。古くはロシアの前身であるモスクワ 大公国と覇を競ったスモレンスク大公国の首都で、東欧における覇権争いで最終的にはロシアに編入された歴史を持ちます。
スモレンスクもある意味でロシアの現況を典型的に体現する地域で、総死亡に於ける心血管イベントの占める割合は59%を超え、そのほとんどが虚血性 心疾患です。経済学的な限界と高齢化社会を迎える日本にとって極めて興味深い保険医療分野におけるフィールドと言えるかもしれません。
そこで、加齢医学研究所と、スモレンスクステートメディカルアカデミーは、加齢医学研究における国際共同研究体制を確立するべく、学術協定を締結する運びとなりました。
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図2 スモレンスクステートメディカルアカデミーのビクターAミラーゲン副総長と、加齢医学研究所の帯刀益夫所長
2003年7月18日、加齢医学研究所大会議室において、学術協定の調印式が挙行されました。
スモレンスクステートメディカルアカデミーからは、副学長の、ビクターAミラーゲン教授と、同じく研究担当副学長のニコライAファラシューク教授が来日され、加齢医学研究所の帯刀益夫所長とともに調印式が行われました。
調印式の事務手続きに当たって奔走していただいた本郷事務長、丸本庶務掛長に深謝いたします。
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図3 学術協定のサインを行うビクターAミラーゲン副総長と、帯刀益夫所長、調印式を撮影する丸本庶務掛長。
調印式の後、加齢研シンポジウム並びに21世紀COEバイオナノテクノロジー基盤未来医工学のバックアップを得て、日露協同国際医工学シンポジウムが開催され、活発なディスカッションが行われました。
更に翌19日には、仙台市内の第1線の病院医師、開業医などを集めて第1回東北脈波情報研究会が開催され、本邦における最新データとともにロシアの動脈硬化の現状について講演が行われました。
加齢医学研究所とスモレンスクステートメディカルアカデミーは、特にロシアでは主たる死亡要因であり、日本でも最近増加が著しい動脈硬化性疾患にフォーカスを置いて、既に共同研究のプレリミナリースタディを開始しています。
動脈硬化においては様々なパラメータが応用されていますが、最近開発された脈波伝播速度の簡易測定装置は、血圧測定用のマンシェットを巻くだけで極 めて簡便な定量的な測定が具体化するので、急速に開業医から病院までの実地医家に普及し始めています。若干のコミュニケーションギャップが不可避になる国 際共同研究においては再現性のある簡便の方法論がデータ収集に不可欠になります。そこで、小規模なプレリミナリースタディから研究を開始いたしました。
その結果、両国における加齢に伴う動脈硬化進展の様式が有意に異なることがわかり、加齢医学における興味深いデータが次々に得られるようになりました。
image008.png
図4 脈波伝播速度の加齢変化の日露比較、ロシア人のほうが動脈硬化の進展が早い。
図に提示するように、日本でもロシアでも、加齢に伴って脈波伝播速度は増加傾向にあります。年齢層別に比較すると、早くも四十代前後には、ロシア人では日本人よりも有意に脈波伝播速度が大きい傾向を提示するようになり、五十代にはこの傾向がますます拡大しています。
すなわち、ロシア人は、日本人に比較して明らかに動脈硬化の進展が早いことが示唆されています。
また、症例数が十分ではないので、数学的解析の段階と言うには限界はありますが、仮に直線回帰を行うと更に興味深い現象も示唆されます。
すなわち、日本人でもロシア人でも直線回帰を行うと、ゼロ軸切片がほぼ一致します。これはすなわち、出生時においては日本人でもロシア人でも、ほぼ 脈波伝播速度が一致すると言う事実を示唆する所見です。これは、誕生したときには日本人もロシア人も差がないのに、成長につれて両民族の差が開いていく現 象を提示していることになります。
両国における加齢医学を追求するのに興味深い基礎データといえるでしょう。
どこで話を聞いたのか、ロシアのテレビ局、TVCが、この日露協同の脈波伝播速度を用いた動脈硬化研究のプロジェクトの取材に参りました。
TVCのキャスターさんが、日本で開発された独自の脈波伝播速度計測装置で、動脈硬化の進展について自ら被験者になって取材していかれました。
このキャスターさんは、ロシア人にしては意外と動脈硬化は進んではいなかったようですが、日本人に比べてロシア人の動脈硬化の進展が早いと言う我々の研究結果は、ロシアの視聴者にとってはたいへんショッキングであるとコメントして行かれました。
image010.png
図5 ロシアのテレビ局、TVCによる日露国際共同研究の取材、脈波伝播速度を計測されているのはキャスターのネカニエフAアレクシービッチ氏
このように脈波伝播速度によって計測される動脈硬化の変化においてもたいへん興味深い現象が観察されています。
この研究は民間との共同による産学共同研究によるもので、昨年採択された東北大学の21世紀COE:バイオナノテクノロジー基盤未来医工学では、医学工学協同によるこのような産学協同や、国際共同研究を積極的に推進しています。
現在、更にこのような新しい方法論から新しい診断法の開発へ結びつけるべく研究が進められており、加齢医学研究所には新しく産学協同研究のための寄付部門が設置されました。
今後更に幅広い分野で、国際学術協定を生かす形で更に積極的に共同研究を推進し、両国における加齢医学の発展に大きく貢献していきたいと考えています。
更新日時:2006/02/07 15:32:05
キーワード:
参照:[news] [PWV : Pulse Wave Velocity

2006年2月6日月曜日


Project Artificial Myocardium

ナノテク集積型人工心筋動物実験に成功!

厚生労働科学研究費補助金萌芽的先端医療技術推進研究事業 ナノテク集積型埋め込み式心室補助装置(H14-ナノ-020)
NEHfigJPG.jpg 東北大学では、厚生労働科学研究費補助金萌芽的先端医療技術推進研究事業のサポートを受けて、ナノテク集積型の全く新しい補助循環装置、「人工心筋」の研究開発に取り組んでおります。
ナノセンサで生体の情報をキャッチし、ナノマイクロ制御チップで生体の需要を素早く計算し、人工心筋で弱った心臓の収縮を強力にサポートします。
人工心臓のようにいつもフル稼働している必要はなく、必要な時だけ動けばよいので、耐久性に大きく優れ、更に血液に直接接触しないので、血栓形成の危険もなく、人工弁の必要もないので、経済性にも優れます。

アイデアは良かったのですが、いざ現実にシステムを組んで動物実験を開始すると、モータは壊れる、山羊は出血する、胸腔は狭い、センサが入らない、麻酔でショック、解剖学的装着困難など、非常に困難が山積みでした。
現実にはアイデアだけではなかなか実験は進みません。
幸い今年度より厚生労働省よりのサポートが受けられることになり、年末まで苦心惨憺しながら動物実験を行って参りましたが、カップ方式でもバンド方式でも、心補助効果を出すのがなかなか困難でした。
昨年末に行われた最終実験で漸く、エレクトロハイドローリック方式に方式を変更して両心室補助が可能になる実験結果が得られました。
心拍出量で16%の上昇、動脈圧で10%の上昇、肺動脈圧で28%の上昇が確認されました。動物実験の段階では、心補助効果がほぼ確認できたと考えます。
更に現在、ナノセンサ開発、マイクロナノ制御チップ開発、制御アルゴリズム開発、経皮エネルギー伝送システム開発、臨床的な左室収縮による流体解析等、各チームで要素技術を確立していただくべく研究が進んでいます。
今後、更に動物実験を重ね、手術手技も簡略化し、結果もリファインして研究成果中間報告会へ望む手はずになっております。
現在、東北大学を初め全国のナノテク研究者、人工臓器研究者の英知を傾けて開発に取り組んでいます。

厚生労働科学研究費補助金萌芽的先端医療技術推進研究事業 ナノテク集積型埋め込み式心室補助装置(H14-ナノ-020)

ナノセンサ開発
江刺正喜、芳賀洋一、高木敏行、羅雲
人工心筋アクチュエータ開発
白石泰之、岡本英治、圓山重直、梅津光生
ナノマイクロチップ制御システム開発
吉澤誠、田中明、
経皮エネルギー伝送システム
松木英敏、佐藤文博
人工心筋動物実験
仁田新一、田林晄一、西條芳文、山家智之
左室収縮動態解析・流体解析
福田寛、早瀬敏幸、川野聡恭、飯島俊彦
自律神経情報による駆動制御
久保豊、大坂元久、南家俊介
企業化へのアプローチ
山内清、佐伯昭雄、井本頓智、紺野能史、
研究代表者:山家智之
更新日時:2006/02/06 00:39:50
キーワード:
参照:[ナノテク応用型人工臓器の開発と臨床応用に関する研究] [news

2006年2月5日日曜日

Med Trib


ダメな国=日本:日本の人工臓器の開発はなぜ進まないか?

日本はなぜこんなダメな国になったのか?
それを改善するにはどうすればいいのか?ー人工臓器をフィールドにこの問題をディスカッションする。
80年代の一時期、全世界に先駆けて日本の補助人工心臓は製造認可を得、盛大な勢いを見せた時期が合った。ところがその後、医療機器産業のうち診断 機器の開発については本邦も順調な発展を見せているが,治療機器,なかでも体内埋め込み型医療機器の開発は,欧米に比べて著しく立ち遅れている。
仙台市で開かれた第41回日本人工臓器学会は、この問題に注目し、対策について活発なディスカッションが行われた。
シンポジウム「人工臓器の開発,動物実験・臨床前試験・臨床治療試験はどうあるべきか? 日本人工臓器学会の役割」(司会=埼玉医科大学心臓血管外 科・許俊鋭教授,東北大学加齢医学研究所・山家智之助教授) では,人工臓器をはじめとするわが国の医療機器産業の現状と課題について討議された。

貿易収支において増大し続ける治療機器の輸入超過

厚生労働省による統計によれば、近年の医療用具の貿易収支で治療関連機器の輸入超過額は増加の一途をたどっている。わが国の治療関連医療機器開発の立ち遅れの原因はどこにあるのか?
例えば代表的な埋め込み型人工臓器である完全置換型人工心臓や補助人工心臓(VAS)を例として考えた場合、開発研究や動物実験のレベルでは,欧米 に比べて著しく遅れているわけではないという。多くの医師や患者は実用化を望んでいるにもかかわらず何故か日本発の新医療用具が臨床応用されない。
この問題に関して、司会の山家助教授から開発者の立場からのセッションの進行が行われ、日本を代表する人工臓器研究開発施設から臨床へ展開する際の 人工臓器学会への役割について討論が進められた。更に司会の許教授からは、臨床応用の立場からの提言が行われ、人工臓器の臨床試験が遅々として進まないこ とを指摘した。治験が進まない要因として,①医薬品と比較して,医療機器産業では事業規模が比較的小さい企業が多く,大規模臨床試験を遂行するための十分 な人的資材,経済的基盤が整わない ②医療機器に対応した独自の臨床試験のルールやガイドラインが未整備で,医薬品と同様の大規模試験が要求される ③プ ラセボ効果の排除のためのランダム化割り付け試験が医療機器では困難,もしくは不可能であり,多くの医療機器ではその必要性がないにもかかわらず,医薬品 と同様に求められる-ことを挙げた。

ビジネスとしての成立は困難

VASの製造メーカーは,実際にVASの開発に当たった企業側から見た問題点として,開発に必要な時間の長さと予想の難しさ,開発費の回収手段の難しさ,保険適用の可否の見込みリスクなど,現状では新規医療用具の開発はリスクが高いと指摘した。
さらに,VASの開発をスタートするに当たっては,調査を実施してビジネスが成立するとの予想はあったが,実際には見込み違いや誤算により,結果的 に採算の合うビジネスにはならなかったと述べた。その理由として,①市場規模の誤算②治験症例数や期間など③保険適用時期の誤認-を挙げた。
たとえば、心臓血管外科手術における手技,機器,薬剤の進歩で成績が向上し、開発開始当初,手術例の10%と予想されていたVASの対象例数が10 分の1となった。さらに経皮的循環補助(PCPS)など,代用法の発達の影響も大きい。VASの保険適用価格が予想より低く,さらに症例数も少なくなった ことから,開発費の回収が不可能となった。②については,症例数の少ない医療機器でも正規の治験数が必要で,研究臨床に3年,臨床試験に4年を要し,費用 が増大化した。③については,製造認可と同時に保険適用となると考えていたが,4年間にわたり保険が適用されなかった。
また,混合診療の禁止により,すべでの医療行為が保険適用外となり,患者負担での適用はほぼ皆無であった。
さらに製造認可の取得と同時に高度先進医療に適用されたものの,5例の実施例がなければ対象とならず,患者負担で症例数を伸ばすことができず適用施 設を増やせなかったことなどから,「現状では新規医療用具の開発はリスクが大きく,企業にとってはビジネスとして扱いにくい」との意見があった。

新しい臨床試験実施基準づくりに学会が積極的に関与

こうした医療機器産業が抱える諸問題への取り組みとじて,現在,日本人工臓器学会では,内閣府および厚生労働省に対して「臨床治験の推進」を提言するとともに,産業界に対しても臨床試験に関する実務面でのサポートか必要と考えている。
具体的には,臨床試験・臨床評価のガイドラインの作成,埋め込み型VAS施設認定基準に関する提案などほか,産業界に向けた臨床試験の実務的サポー トを担う。また,単独では治験審査委員会を持つことが困難な小規模施設でも医療機器の臨床試験が実施できるよう,人工臓器学会治験審査委員会(ARB)の 設立構想などが進められている。これらを通じて日本人工臓器学会では,平成17年度に施行が予定されている医療機器のための新しい臨床試験実施基準づくり に学会員が積極的に発言し,また,前臨床試験のルールづくりなど医師主導の治験の在り方を巡って積極的に関与してきた。
人工臓器学会理事長の許教授は「産業立国であるわが国の将来にとって,医療機器産業の育成は必須条件であることの認識が希薄だ。移植医療と同様;わ が国の医療はわが国のリスクと責任で推進するとの基本的認識の確立が急務である」と述べ,メデイアや国民に強力なサポートを要請していくことの重要性を訴 えた。

学会主導で早急な社会基盤整備を

経済原理のもとでの人工臓器の研究開発は,米国を中心にし烈化している。これに対し,基礎研究が中心で産業界とのつながりが不十分であり,治験体制に未整備な部分を抱えるわが国の現状では,日米の格差は広がるばかりである。
さらに,基礎開発研究の分野では,いわゆるボストゲノミクスの基礎研究を発展応用した先端医療の登場により,従来の 治療概念は根底から覆り,変革 されつつある。大阪大学大学院臓器制御外科の澤芳樹講師は,こうした変革に対応するために,高いレベルの基礎研究を基盤に,研究者のための研究ではなく, 経済性や産業化の可能性を視野に入れた開発が必要だと指摘した。  
わが国の人工臓器研究開発における臨床試験を優先的に推進するためには①国際競争力に優れた国産人工臓器への臨床試験用経費も盛り込んだ集中的大規 模予算の投入②大企 業等産業界の積極的参入の援助③新規医療用具に対する厚生労働省の迅速審査④混合診療の認可などの保健診療制度改革による臨床試験経 費の軽減-などの社会基盤整備が重要で ある。また,そのための課題として,①機器の臨床評価の科学的根拠 ②医療機器の特性に配慮した具体的な基準によ る整備研究開発の価値評価 ③製品化に向けでの周辺企業の支援④リスクや費用などの医療経済学上の評価⑤リスクとリターンにかかわる適切で的確な議論-が 必要である。同講師は,こうした課題を踏まえたうえで「医療機器開発にかかわる自主的ガイドラインを作成し,日本人工臓器学会が指導的立場に立ち,早急な 社会基盤整備と先端的人工臓器開発を積極的に図れば好循環が生まれうる」と述べた。

改正薬事法の大きな変更点に

一方,厚生労働省では,現在,薬事制度の見直しを進めている。同省医薬品医療機器審査センターの木下勝美氏は,「今回の薬事法改正のなかで,最も大きな変更点が医療機器 に関する見直しである」と述べた。
同省では今回の制度改正のなかで,医療機器の進化に伴う構造の複雑化とともに,医薬品以上に多様な技術や素材が用いられている特性に対応して,医療 機器にかかわる安全 対策を講じるため,臨床試験実施基準(GCP)や非臨床試験実施基準(GLP)など,これまで十分に法制化が進められてこなかった部 分について,医薬品と同様にルールを整備するとしている。 
また,医療機器をそのリスクの度合いによってクラス分けし,多種多様な機器のおのおののリスクに対応した合理的な規制の構築を目指している。
なお,認証機関についても,平成17年度からは,リスクの低い医療機器に対しては第三者認証制度が開始予定とされている。来年度から(財)医療機器 センター,(認)医薬品機構が廃止され,国立医薬品食品衛生研究所の医薬品医療機器審査センターと統合され,新たに医薬品等にかかわる研究開発業務,医薬 品調査等業務,および救済給付業務を行う独立行政法人が設置されることが決まっている。この法人は今後,医療機器安全対策の中核的役割を担うことになる が,工学系の審査官も含めて審査官の増員が予定されており,これまで問題となっていた審査官の員数が改善され,医療機器の承認審査体制の充実強化が図られ る見通しとなっている。 
さらに,新たな承認審査制度では国際的整合性の取れた審査体制が構築される予定で,医療機器規制の国際整合化会議(GHTF)での合意基準のほか,国際標準化機構(ISO),国 際電気標準会議(IEC)についても積極的な取り入れが図られる予定である。
同氏は「今回の薬事制度の見直しによって,現審査制度が抱えている問題が解消され,わが国の医療機器産業の発展につながることが期待される」と述べた。
(Medical Tribune誌より一部改変)
更新日時:2006/02/05 21:42:54

2006年1月27日金曜日

AH2006


AH

人工心臓

人工心臓は一般的には補助人工心臓と完全人工心臓の二種類に分類される。
補助人工心臓は、心臓の手術等の心不全に対して一時的に用いられるものであり、心機能の回復の後に取り外される。これに対して完全人工心臓は、心臓の全ポンプ機能を代行する人工臓器であり。外科的に心臓を切除した後に埋め込まれる。
補助人工心臓にも全人工心臓にも様々な方式のものがある。
現在汎用されているのは、空気圧駆動型の拍動型補助人工心臓である。図1に臨床応用中の東北大学で開発された補助人工心臓の写真を提示する。
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図1 臨床応用中の東北大学型空気圧駆動式補助人工心臓
この患者さんは心臓の手術の後、体外循環からの離脱が不能で、自分の心臓だけでは循環を維持することができなかった患者さんである。この患者さんの ように補助人工心臓は一般的に人工心臓がなければ生命を救うことができない状態で応用される。現在までに本邦では298例の補助人工心臓の臨床応用が報告 されている。日本では補助人工心臓の臨床応用が普及された後も、なかなか長期の生存例が得られないでいたが、1985年、東北大学医学部附属病院において 本邦初の補助人工心臓臨床応用の成功例が報告され、日本における臨床への普及が加速した歴史が在る。
東北大学からはその後15例の補助人工心臓の臨床応用が報告されたが、東北大学でも日本全体でも、また世界全体を見渡した成績においても、補助人工 心臓をはずして自分の心臓だけで循環を維持できるところまで回復できるのが、補助人工心臓を装着された患者さんの約半数であり、更に完全に回復して病院を 退院し、長期生存に至ることができうるのは更にその半数である。従って全世界的に見ても、また東北大学においても、約75%の患者は長期生存に至ることが できない。そこで、例えば補助人工心臓から離脱できない患者さんのためには、次のステップとして完全埋め込み型の補助人工心臓の開発が求められる。現在臨 床応用されている図1のような空気圧駆動型の補助人工心臓は胸を直径20mmを超える太いカニューレが2本貫通しており、また小型冷蔵庫ほどの駆動装置か ら離れることができず、実質的にはベッドに寝たきりに縛り付けられることになる。また胸壁を貫通するカニューレによって感染症の危険からも脱却できない。 そこで現在世界中の様々な施設において開発されてきているのが完全埋め込み型の補助人工心臓である。
図2に提示したのは 東北大学で開発中の完全埋め込み型の補助人工心臓システムの概念図である。
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図2 完全埋込型補助人工心臓システムの埋込概念図
人工心臓の駆動エネルギーは、大学院工学研究科の松木教授らが開発した経皮エネルギー伝送システムによって体外から電磁誘導によって供給される。埋 め込まれた電磁駆動型補助人工心臓は流体科学研究所の橋本名誉教授が特許を持つ振動流ポンプシステムであり、駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授 が開発中で、人工心臓は大学院医学研究科駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授が開発中で、人工心臓の動物実験に当たっては大学院医学研究科の田林 教授にもご協力を願っている。このように非常に多くの研究室によって開発されているまさしく総合大学ならではのプロジェクトである。もちろん世界各地でこ の他にも多くの埋め込み型の補助人工心臓システムが開発されており、ロータリーポンプ等を応用した無拍動流型の補助人工心臓もある。Heartmate や、Novacor等の米国で開発された完全埋め込み型の拍動型補助人工心臓システムもあるが、一般的には日本人のような体格の小さい東洋人に埋め込むに は若干大きすぎると言う批判は否めない。
完全人工心臓は、文字通り心臓の全機能を代行しなくてはならないので、より要求される条件は厳しいことはもちろんである。全機能を代行するために は、何もシステム全体を埋め込む必要はないと言われており、図3に提示するような体外に設置された両心バイパス型の人工心臓も在る。
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図3 両心バイパス型完全人工心臓の慢性動物実験
この山羊の自然心臓は電気的に停止させているので、全心機能は人工心臓によって維持されている。このシステムによって同一個体での自然心臓循環と人 工心臓循環を比較検討することが可能になるので、病態生理学的に興味深い実験を行うことができる。人工心臓のカオス解析などはこのシステムによって得られ た興味深い実験成果の一つである。またもちろん心臓を切除して埋め込む置換型の完全人工心臓も世界中の多くの施設で開発が進められつつある。
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図4 空気圧駆動型完全置換型全人工心臓と試作システム
図4は東北大学で開発された空気圧駆動型の完全置換型の人工心臓である。PVCペーストで成形され、坑血栓性を向上させるために内面をポリウレタンでコーティングしている。
耐久性を向上させるためにシリコンボール弁を応用したシステムであり、現在は山羊を用いたフィッティングスタディの段階である。
現在アメリカではこのような完全置換型の人工心臓を電磁駆動型にして開発する方向性で研究が進められており、ペンシルバニア大学等で開発が続けられ ているが、FDAの認可が下りる基準が85kg以上の大人が目標とされており、殆どの日本人には大きすぎる開発目標となっている。そのため日本でも現在東 洋人向けの人工心臓を目指して開発が継続しており、東京大学では電磁駆動型の完全埋め込み型のシステムを用いて山羊の31日間の生存に成功している。国立 循環器病センターでも腹腔にモーターを埋め込む独自のシステムを開発しており現在まで10日間の生存に成功している。東北大学でも最近は流体科学研究所の 圓山教授らのペルテェ素子を用いた人工心臓アクチュエータによる開発を進めている。このシステムを応用すると簡便で耐久性の高い安価なシステム構築が可能 となるので、新世代の人工心臓として注目されている。
欧米で開発された人工心臓も元はと言えばベンチャー企業の開発と政府からの援助が基本になっており、東北大学のシステムも地元に立脚したベンチャー育成の立場からの開発研究を行ってく必要があるかもしれない。
更新日時:2006/01/27 20:13:31

2006年1月23日月曜日




波動型人工心臓実用化総合的研究

波動型人工心臓実用化のための総合的研究成果報告会

医薬品機構のバックアップによる波動型人工心臓開発プロジェクトは、研究代表者の井街教授を東京大学から東北大学へ招聘し、新しく発足いたしました。
中間評価を経て、従来の6大学共同研究機構は、東北大チームは井街教授を中心に再編成、東大チームは傘下に早稲田九大チームを保持し、北大と北海道東海大を1チームに再編成し、波動ポンプの実用化を目指した再編成が行われました。
平成17年1月7日~8日、早稲田大学の梅津教授のチェアで、再編成後、最初の医薬品機構波動ポンプ予算の研究成果報告会が行われました。
会の後は、早稲田大学の見学や、懇親会も行われ、来年度への英気を養いました。
今年度の波動ポンプの試作システムの数などが話し合われ、東北大学でも今年度は、波動ポンプの長期生存を目指して実験を進める予定であります。
更新日時:2006/01/23 12:40:48