2006年1月27日金曜日

AH2006


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人工心臓

人工心臓は一般的には補助人工心臓と完全人工心臓の二種類に分類される。
補助人工心臓は、心臓の手術等の心不全に対して一時的に用いられるものであり、心機能の回復の後に取り外される。これに対して完全人工心臓は、心臓の全ポンプ機能を代行する人工臓器であり。外科的に心臓を切除した後に埋め込まれる。
補助人工心臓にも全人工心臓にも様々な方式のものがある。
現在汎用されているのは、空気圧駆動型の拍動型補助人工心臓である。図1に臨床応用中の東北大学で開発された補助人工心臓の写真を提示する。
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図1 臨床応用中の東北大学型空気圧駆動式補助人工心臓
この患者さんは心臓の手術の後、体外循環からの離脱が不能で、自分の心臓だけでは循環を維持することができなかった患者さんである。この患者さんの ように補助人工心臓は一般的に人工心臓がなければ生命を救うことができない状態で応用される。現在までに本邦では298例の補助人工心臓の臨床応用が報告 されている。日本では補助人工心臓の臨床応用が普及された後も、なかなか長期の生存例が得られないでいたが、1985年、東北大学医学部附属病院において 本邦初の補助人工心臓臨床応用の成功例が報告され、日本における臨床への普及が加速した歴史が在る。
東北大学からはその後15例の補助人工心臓の臨床応用が報告されたが、東北大学でも日本全体でも、また世界全体を見渡した成績においても、補助人工 心臓をはずして自分の心臓だけで循環を維持できるところまで回復できるのが、補助人工心臓を装着された患者さんの約半数であり、更に完全に回復して病院を 退院し、長期生存に至ることができうるのは更にその半数である。従って全世界的に見ても、また東北大学においても、約75%の患者は長期生存に至ることが できない。そこで、例えば補助人工心臓から離脱できない患者さんのためには、次のステップとして完全埋め込み型の補助人工心臓の開発が求められる。現在臨 床応用されている図1のような空気圧駆動型の補助人工心臓は胸を直径20mmを超える太いカニューレが2本貫通しており、また小型冷蔵庫ほどの駆動装置か ら離れることができず、実質的にはベッドに寝たきりに縛り付けられることになる。また胸壁を貫通するカニューレによって感染症の危険からも脱却できない。 そこで現在世界中の様々な施設において開発されてきているのが完全埋め込み型の補助人工心臓である。
図2に提示したのは 東北大学で開発中の完全埋め込み型の補助人工心臓システムの概念図である。
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図2 完全埋込型補助人工心臓システムの埋込概念図
人工心臓の駆動エネルギーは、大学院工学研究科の松木教授らが開発した経皮エネルギー伝送システムによって体外から電磁誘導によって供給される。埋 め込まれた電磁駆動型補助人工心臓は流体科学研究所の橋本名誉教授が特許を持つ振動流ポンプシステムであり、駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授 が開発中で、人工心臓は大学院医学研究科駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授が開発中で、人工心臓の動物実験に当たっては大学院医学研究科の田林 教授にもご協力を願っている。このように非常に多くの研究室によって開発されているまさしく総合大学ならではのプロジェクトである。もちろん世界各地でこ の他にも多くの埋め込み型の補助人工心臓システムが開発されており、ロータリーポンプ等を応用した無拍動流型の補助人工心臓もある。Heartmate や、Novacor等の米国で開発された完全埋め込み型の拍動型補助人工心臓システムもあるが、一般的には日本人のような体格の小さい東洋人に埋め込むに は若干大きすぎると言う批判は否めない。
完全人工心臓は、文字通り心臓の全機能を代行しなくてはならないので、より要求される条件は厳しいことはもちろんである。全機能を代行するために は、何もシステム全体を埋め込む必要はないと言われており、図3に提示するような体外に設置された両心バイパス型の人工心臓も在る。
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図3 両心バイパス型完全人工心臓の慢性動物実験
この山羊の自然心臓は電気的に停止させているので、全心機能は人工心臓によって維持されている。このシステムによって同一個体での自然心臓循環と人 工心臓循環を比較検討することが可能になるので、病態生理学的に興味深い実験を行うことができる。人工心臓のカオス解析などはこのシステムによって得られ た興味深い実験成果の一つである。またもちろん心臓を切除して埋め込む置換型の完全人工心臓も世界中の多くの施設で開発が進められつつある。
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図4 空気圧駆動型完全置換型全人工心臓と試作システム
図4は東北大学で開発された空気圧駆動型の完全置換型の人工心臓である。PVCペーストで成形され、坑血栓性を向上させるために内面をポリウレタンでコーティングしている。
耐久性を向上させるためにシリコンボール弁を応用したシステムであり、現在は山羊を用いたフィッティングスタディの段階である。
現在アメリカではこのような完全置換型の人工心臓を電磁駆動型にして開発する方向性で研究が進められており、ペンシルバニア大学等で開発が続けられ ているが、FDAの認可が下りる基準が85kg以上の大人が目標とされており、殆どの日本人には大きすぎる開発目標となっている。そのため日本でも現在東 洋人向けの人工心臓を目指して開発が継続しており、東京大学では電磁駆動型の完全埋め込み型のシステムを用いて山羊の31日間の生存に成功している。国立 循環器病センターでも腹腔にモーターを埋め込む独自のシステムを開発しており現在まで10日間の生存に成功している。東北大学でも最近は流体科学研究所の 圓山教授らのペルテェ素子を用いた人工心臓アクチュエータによる開発を進めている。このシステムを応用すると簡便で耐久性の高い安価なシステム構築が可能 となるので、新世代の人工心臓として注目されている。
欧米で開発された人工心臓も元はと言えばベンチャー企業の開発と政府からの援助が基本になっており、東北大学のシステムも地元に立脚したベンチャー育成の立場からの開発研究を行ってく必要があるかもしれない。
更新日時:2006/01/27 20:13:31

2006年1月23日月曜日




波動型人工心臓実用化総合的研究

波動型人工心臓実用化のための総合的研究成果報告会

医薬品機構のバックアップによる波動型人工心臓開発プロジェクトは、研究代表者の井街教授を東京大学から東北大学へ招聘し、新しく発足いたしました。
中間評価を経て、従来の6大学共同研究機構は、東北大チームは井街教授を中心に再編成、東大チームは傘下に早稲田九大チームを保持し、北大と北海道東海大を1チームに再編成し、波動ポンプの実用化を目指した再編成が行われました。
平成17年1月7日~8日、早稲田大学の梅津教授のチェアで、再編成後、最初の医薬品機構波動ポンプ予算の研究成果報告会が行われました。
会の後は、早稲田大学の見学や、懇親会も行われ、来年度への英気を養いました。
今年度の波動ポンプの試作システムの数などが話し合われ、東北大学でも今年度は、波動ポンプの長期生存を目指して実験を進める予定であります。
更新日時:2006/01/23 12:40:48

2006年1月22日日曜日


病態計測制御分野の概要

この研究室では人工心臓の開発を初めとする循環器病学の治療や診断等の研究や、カオス力学をはじめとする非線形数学理論の医学応用、バーチャルリアリティ、超音波医学等の研究を通して臓器単位の加齢疾患に対する臨床研究・基礎研究を介した加齢医学の確立を目指しています。
ClVAD.jpg 特に「電子医学部門」であった時代から伝統的に医工学連携に力を入れて研究を行ってきており、大学院工学研究科を中心に連携している研究室は十指に余り、企業との産学共同研究にも積極的に携わってきました。日本で最初の補助人工心臓の臨床の成功は東北大学で得られました。
また、空気圧駆動型の補助人工心臓は日本で最初に企業化され、保険認可が得られましたが、治験のコントローラは東北大のこの研究室に置き、臨床効果 を証明しました。また超音波診断におけるBモード法(=超音波断層法)は、工学部との密接な連携によって当教室で開発されたものです。臨床用補助人工心 臓、超音波診断装置、IABP駆動装置、超音波顕微鏡、血管造影カテーテル、体外循環システム、携帯超音波装置等、数多くの医療器具が当研究室において開 発、動物実験が行われ、臨床試験から商品化、企業化が進んできています。
病態計測制御分野は、統合後の医学部附属病院に於いては、心臓血管外科の外来・病棟・検査等を担当し、心臓カテーテル検査及び術中超音波検査等を介して心臓大血管手術の成績向上に大きく貢献しています。
発足の当初から、「実学」を目指した循環器病の臨床研究、商品化・企業化まで視点に於いた現場の病院で役立つ研究を旗印に、加齢に伴う心臓血管病を 臓器単位で助けるべく日夜研究が精力的に推進されています。人工心臓の開発の他にも、例えば超音波医学は前教授の田中元直先生以来の伝統ある研究分野で、 心臓超音波断層がこの研究室で生まれ、ドプラ法開発が行われ、最近では超音波顕微鏡の開発研究などが注目されてきています。
当研究室は、昭和53年に開設され、旧抗酸菌病研究所内科部門のME研究室を母胎に「電子医学部門」として発足しました。また医工学による循環器治 療の体系確立のために医学部胸部外科から仁田新一先生を助教授として招聘し、最先端医工学による診断から治療までの研究体制を整えてきました。
東北厚生年金病院・仙台社会保険病院・宮城社会保険病院・宮城県立瀬峰病院・宮城県立ガンセンター・公立深谷病院等の循環器科の関連の病院や、多くの開業されたOBの先生方などを介して循環器系の臨床研究にも従事し、宮城県内の循環器診療にも大きく貢献しています。
このような歴史に則って、ME研究室と、抗酸菌病研究所の電子医学部門、更に現在の病態計測制御分野の同窓生が甲辰会という同窓会組織を作って、現 在は和気藹々と県内の循環器病診療に携わっており、患者さんの紹介等をお互いに行いつつ、互いの病院で強い分野を生かしあいながら、患者さんの診療に大き く貢献しています。残念ながら現在県内に、循環器と腎臓を完璧に兼ね備えたと思われる病院はないとも言えます。透析で有名な病院には心臓外科がなく、優秀 な心臓外科医が居る病院では維持透析はやっていなかったり・・・大学病院には全科そろっていますが、基本的に救急病院でないので救急やインターベンション の症例数が少ない状況です。で、あれば、県内のいくつかの病院同士がタイアップして診療にあたるしかない理屈になります。当研究室では、以前からOBの先 生方を介して幾つかの総合病院の循環器科や開業医の先生方を巻き込んで診療を行ってきました。垣根の低い、ある種の「バーチャル循環器連合医局」のような 融合体とも言えるかもしれません。
肺移植の研究で伝統ある近藤先生の研究室で移植の臨床が脚光を浴びたのは記憶に新しいところですが、心臓移植の臨床の再開に伴って人工心臓の臨床もまた再び脚光を浴びつつあります。
人工心臓は一般的には補助人工心臓と完全人工心臓の二種類に分類されますが、補助人工心臓は、心臓の手術等の心不全に対して一時的に用いられるもの であり、心機能の回復の後に取り外されます。これに対して完全人工心臓は、心臓の全ポンプ機能を代行する人工臓器であり。外科的に心臓を切除した後に埋め 込まれます。我々は完全人工心臓と補助人工心臓、更に人工心筋等の開発を行っていますが、世界全体を見渡した成績においても、補助人工心臓をはずして自分 の心臓だけで循環を維持できるところまで回復できるのが、補助人工心臓を装着された患者さんの約半数であり、更に完全に回復して病院を退院し、長期生存に 至ることができうるのは更にその半数で、約75%の患者は長期生存に至ることができません。
そこで、例えば補助人工心臓から離脱できない患者さんのためには、次のステップとしてQOLに優れた完全埋込型の補助人工心臓の開発が求められ、現在世界中の様々な施設において開発されてきているのがこのシステムです。 HeartMate? や、Novacor等の米国で開発された完全埋め込み型の拍動型補助人工心臓システムもありますが、一般的には日本人のような体格の小さい東洋人に埋め込 むには大きすぎるので、東北大学でも独自の埋込型人工心臓を開発中です。これも医工学連携の一つの形態の一典型と考えています。
更にマイクロナノテクノロジーを駆使した全く新しい「人工心筋」の開発、制御ナノセンサ・マイクロセンサ開発、マイクロ人工心筋、カテーテル、バ ルーンなどの医療器具開発等を行いつつ、マイクロプローブによる微小循環、マイクロニューログラフィ計測、血管内超音波など多彩なナノテク循環器医工学研 究を行っております。
humanEHAM.jpg 超音波診断学の領域でも、超音波顕微鏡開発、血管内超音波、超音波による治療など広く展開しています。
興味ある方は是非一度見学に来てください。
更新日時:2006/01/22 23:08:18
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2005年10月19日水曜日

バイオテクノロジー人工臓器


ナノテク医療か再生医療か?

バイオナノテクノロジー人工臓器研究会


 再生医療とナノテクノロジーは、人工臓器の未来に新風を吹き込む新しい研究分野として脚光を浴びています。
 再生医療による臓器再生は、例えば皮膚などの分野では既に臨床のレベルに到達していますが、内臓単位の大きさのものの再生となると一筋縄では 参りません。特に心臓などのように動きの機能を持つ内臓の再生医療は簡単ではなく、心筋シートは作成できても、心臓丸ごとを作成するのとでは大きな違いが あり、この方面の研究はまだ飛躍的なブレークスルーがないと実現は不可能でしょう。
 人工臓器工学は、腎臓、心臓などの面では既に日常臨床の供されているものもあります。透析療法は日本全国どこにいても受けることができるよう になり、腎不全患者の生命を救っています。またアメリカでは完全置換型人工心臓アビオコアの臨床治療試験が開始されていますが、欧米で開発された人工心臓 はほとんどの日本人には埋め込めない大きなものになっています。そのため日本の末期的心不全患者は、補助人工心臓を装着されて移植を待つ患者がほとんどで す。これも小型の埋め込み型補助人工心臓の開発は全世界で進められていますが小型化にはブレイクスルーが必要です。また、人工肝臓、人工膵臓、人工消化管 などの分野では、再生医療とのコンバインが企画されています。
 従って、現状では再生医療も人工臓器工学も一長一短があり、両者がコンバインして発展を続ける必要があるでしょう。
 そのために結成されたとも言えるのが、日本エムイー学会専門別研究会、バイオナノテクノロジー人工臓器研究会です。

第1回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成15年 5月23日)
第2回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成15年10月22日)
第3回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成15年10月31日)
市民公開講座(平成15年11月1日)
第4回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成16年 1月24日)
第5回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成16年 4月26日)
第6回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成16年 7月30日)
第7回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 11月5日)
第8回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 3月 4日)
第9回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 4月27日)
第10回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 5月23日)
第13回バイオナノテクノロジー人工臓器研究会(平成17年 10月 9日)

  再生医療の分野では、現実には臓器単位で再生させることは三次元構造などの構築の面でなかなか難しいものがありますが、神経の再生を促したり、皮膚の再生 を促すマテリアルは臨床に近い線まで進んでおり、一部治療試験も開始されています。皮膚形成を促す創傷治癒促進効果を持つバイオアブソーバブルマテリアル などは商業ベースで臨床応用されています。
 このようなナノバイオマテリアルを応用した再生医療の試みは、長期動物実験の段階まで進んでいます。図に提示するように、内視鏡画像では消化管の粘膜の再生が促されつつあります。
 これが、再生医療技術を応用して作成されたバイオナノテクノロジーによる人工消化管です。
 消化器外科手術では再建のための消化管が必要になります。食道癌手術などでは食道の再建のために開腹手術も必要になるので、患者の侵襲が大 きく、体力のない患者や高齢者は手術できません。また小腸の手術後、残存小腸が短いと、短腸症候群により患者は静脈栄養なしには生存できなくなります。
 従って、このようなバイオナノテクノロジーによる人工消化管があれば応用範囲は大きいものがあります。このように再生医療技術を人工臓器の分野にも応用していくことで長足の進歩が望まれます。
 心臓の領域でも、再生心筋が注目されていますが、一枚の心筋シートはできますが、三次元的に構造を再構築して心臓を作成することは事実上不可能です。また血管の再生が困難で四層以上の心筋シートは重ねても心筋細胞が壊死するだけになります。
 ここではナノテクノロジーがブレイクスルーをもたらします。
 形状記憶合金は、体積比で人間の筋肉の千倍もの効率を誇る優れたアクチュエータとして有用性が高いですが、耐久性が問題です。
 近年のナノテクノロジーの発展はこの分野にもブレイクスルーをもたらしました。
 図に提示するように、形状記憶合金では分子結晶配列が整わずに、バラバラな方向に走る結晶が耐久性の限界をもたらすわけですが、近年のナノ テクノロジーの発展はこの問題を解決し、従来型の千倍もの耐久性を具現化しています。従ってこの分野では、ナノテクノロジーの発展が再生医療の限界を凌駕 していることになります。再生医療工学、ナノテクノロジー、人工臓器工学のコンバインにより、臨床応用可能な新しい人工臓器が花開いていくものと大きく期 待されます。
 平成17年度は、再生医学関連の学術集会や医用アクチュエーション技術に関する協同研究委員会などとの協同での学術集会や学術研究を企画しています。
会長:山家智之 連絡担当幹事:岡本英治 
幹事:三田村好矩、山根隆志、吉澤誠、田中明、白石泰之、仁田新一、井街宏、増沢徹、

人工臓器学会シンポジウム


ダメな国=日本:
日本の人工臓器の開発はなぜ進まないか?


 日本はなぜこんなダメな国になったのか?
 それを改善するにはどうすればいいのか?ー人工臓器をフィールドにこの問題をディスカッションする。
 80年代の一時期、全世界に先駆けて日本の補助人工心臓は製造認可を得、盛大な勢いを見せた時期が合った。ところがその後、医療機器産業の うち診断機器の開発については本邦も順調な発展を見せているが,治療機器,なかでも体内埋め込み型医療機器の開発は,欧米に比べて著しく立ち遅れている。
 仙台市で開かれた第41回日本人工臓器学会は、この問題に注目し、対策について活発なディスカッションが行われた。
 シンポジウム
 「人工臓器の開発,動物実験・臨床前試験・臨床治療試験はどうあるべきか? 日本人工臓器学会の役割」
 (司会=埼玉医科大学心臓血管外科・許俊鋭教授東北大学加齢医学研究所・山家智之助教授) では,人工臓器をはじめとするわが国の医療機器産業の現状と課題について討議された。
貿易収支において増大し続ける治療機器の輸入超過  

厚生労働省による統計によれば、近年の医療用具の貿易収支で治療関連機器の輸入超過額は増加の一途をたどっている。わが国の治療関連医療機器開発の立ち遅れの原因はどこにあるのか?
 例えば代表的な埋め込み型人工臓器である完全置換型人工心臓や補助人工心臓(VAS)を例として考えた場合、開発研究や動物実験のレベルで は,欧米に比べて著しく遅れているわけではないという。多くの医師や患者は実用化を望んでいるにもかかわらず何故か日本発の新医療用具が臨床応用されな い。
 この問題に関して、司会の山家助教授から開発者の立場からのセッションの進行が行われ、日本を代表する人工臓器研究開発施設から臨床へ展開す る際の人工臓器学会への役割について討論が進められた。更に司会の許教授からは、臨床応用の立場からの提言が行われ、人工臓器の臨床試験が遅々として進ま ないことを指摘した。治験が進まない要因として,①医薬品と比較して,医療機器産業では事業規模が比較的小さい企業が多く,大規模臨床試験を遂行するため の十分な人的資材,経済的基盤が整わない ②医療機器に対応した独自の臨床試験のルールやガイドラインが未整備で,医薬品と同様の大規模試験が要求される  ③プラセボ効果の排除のためのランダム化割り付け試験が医療機器では困難,もしくは不可能であり,多くの医療機器ではその必要性がないにもかかわらず, 医薬品と同様に求められる-ことを挙げた。
ビジネスとしての成立は困難
VASの製造メーカーは,実際にVASの開発に当たった企業側から見た問題点として,開発に必要な時間の長さと予想の難しさ,開発費の回収手段の難しさ,保険適用の可否の見込みリスクなど,現状では新規医療用具の開発はリスクが高いと指摘した。
 さらに,VASの開発をスタートするに当たっては,調査を実施してビジネスが成立するとの予想はあったが,実際には見込み違いや誤算により, 結果的に採算の合うビジネスにはならなかったと述べた。その理由として,①市場規模の誤算②治験症例数や期間など③保険適用時期の誤認-を挙げた。
 たとえば、心臓血管外科手術における手技,機器,薬剤の進歩で成績が向上し、開発開始当初,手術例の10%と予想されていたVASの対象例数 が10分の1となった。さらに経皮的循環補助(PCPS)など,代用法の発達の影響も大きい。VASの保険適用価格が予想より低く,さらに症例数も少なく なったことから,開発費の回収が不可能となった。②については,症例数の少ない医療機器でも正規の治験数が必要で,研究臨床に3年,臨床試験に4年を要 し,費用が増大化した。③については,製造認可と同時に保険適用となると考えていたが,4年間にわたり保険が適用されなかった。
 また,混合診療の禁止により,すべでの医療行為が保険適用外となり,患者負担での適用はほぼ皆無であった。
 さらに製造認可の取得と同時に高度先進医療に適用されたものの,5例の実施例がなければ対象とならず,患者負担で症例数を伸ばすことができず 適用施設を増やせなかったことなどから,「現状では新規医療用具の開発はリスクが大きく,企業にとってはビジネスとして扱いにくい」との意見があった。                  
新しい臨床試験実施基準づくりに学会が積極的に関与
 こうした医療機器産業が抱える諸問題への取り組みとじて,現在,日本人工臓器学会では,内閣府および厚生労働省に対して「臨床治験の推進」を提言するとともに,産業界に対しても臨床試験に関する実務面でのサポートか必要と考えている。
 具体的には,臨床試験・臨床評価のガイドラインの作成,埋め込み型VAS施設認定基準に関する提案などほか,産業界に向けた臨床試験の実務 的サポートを担う。また,単独では治験審査委員会を持つことが困難な小規模施設でも医療機器の臨床試験が実施できるよう,人工臓器学会治験審査委員会 (ARB)の設立構想などが進められている。これらを通じて日本人工臓器学会では,平成17年度に施行が予定されている医療機器のための新しい臨床試験実 施基準づくりに学会員が積極的に発言し,また,前臨床試験のルールづくりなど医師主導の治験の在り方を巡って積極的に関与してきた。
 人工臓器学会理事長の許教授は「産業立国であるわが国の将来にとって,医療機器産業の育成は必須条件であることの認識が希薄だ。移植医療と 同様;わが国の医療はわが国のリスクと責任で推進するとの基本的認識の確立が急務である」と述べ,メデイアや国民に強力なサポートを要請していくことの重 要性を訴えた。
学会主導で早急な社会基盤整備を 
 経済原理のもとでの人工臓器の研究開発は,米国を中心にし烈化している。これに対し,基礎研究が中心で産業界とのつながりが不十分であり,治験体制に未整備な部分を抱えるわが国の現状では,日米の格差は広がるばかりである。
 さらに,基礎開発研究の分野では,いわゆるボストゲノミクスの基礎研究を発展応用した先端医療の登場により,従来の 治療概念は根底から覆 り,変革されつつある。大阪大学大学院臓器制御外科の澤芳樹講師は,こうした変革に対応するために,高いレベルの基礎研究を基盤に,研究者のための研究で はなく,経済性や産業化の可能性を視野に入れた開発が必要だと指摘した。  
 わが国の人工臓器研究開発における臨床試験を優先的に推進するためには①国際競争力に優れた国産人工臓器への臨床試験用経費も盛り込んだ集 中的大規模予算の投入②大企 業等産業界の積極的参入の援助③新規医療用具に対する厚生労働省の迅速審査④混合診療の認可などの保健診療制度改革による臨 床試験経費の軽減-などの社会基盤整備が重要で ある。また,そのための課題として,①機器の臨床評価の科学的根拠 ②医療機器の特性に配慮した具体的な 基準による整備研究開発の価値評価 ③製品化に向けでの周辺企業の支援④リスクや費用などの医療経済学上の評価⑤リスクとリターンにかかわる適切で的確な 議論-が必要である。同講師は,こうした課題を踏まえたうえで「医療機器開発にかかわる自主的ガイドラインを作成し,日本人工臓器学会が指導的立場に立 ち,早急な社会基盤整備と先端的人工臓器開発を積極的に図れば好循環が生まれうる」と述べた。
改正薬事法の大きな変更点に
 一方,厚生労働省では,現在,薬事制度の見直しを進めている。同省医薬品医療機器審査センターの木下勝美氏は,「今回の薬事法改正のなかで,最も大きな変更点が医療機器 に関する見直しである」と述べた。
 同省では今回の制度改正のなかで,医療機器の進化に伴う構造の複雑化とともに,医薬品以上に多様な技術や素材が用いられている特性に対応し て,医療機器にかかわる安全 対策を講じるため,臨床試験実施基準(GCP)や非臨床試験実施基準(GLP)など,これまで十分に法制化が進められてこな かった部分について,医薬品と同様にルールを整備するとしている。 
 また,医療機器をそのリスクの度合いによってクラス分けし,多種多様な機器のおのおののリスクに対応した合理的な規制の構築を目指している。
 なお,認証機関についても,平成17年度からは,リスクの低い医療機器に対しては第三者認証制度が開始予定とされている。来年度から(財) 医療機器センター,(認)医薬品機構が廃止され,国立医薬品食品衛生研究所の医薬品医療機器審査センターと統合され,新たに医薬品等にかかわる研究開発業 務,医薬品調査等業務,および救済給付業務を行う独立行政法人が設置されることが決まっている。この法人は今後,医療機器安全対策の中核的役割を担うこと になるが,工学系の審査官も含めて審査官の増員が予定されており,これまで問題となっていた審査官の員数が改善され,医療機器の承認審査体制の充実強化が 図られる見通しとなっている。 
 さらに,新たな承認審査制度では国際的整合性の取れた審査体制が構築される予定で,医療機器規制の国際整合化会議(GHTF)での合意基準のほか,国際標準化機構(ISO),国 際電気標準会議(IEC)についても積極的な取り入れが図られる予定である。
 同氏は「今回の薬事制度の見直しによって,現審査制度が抱えている問題が解消され,わが国の医療機器産業の発展につながることが期待される」と述べた。
Medical Tribune誌より一部改変

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2005年7月19日火曜日

心停止下の無拍動人工心臓


心停止下の無拍動左心補助循環
EvaHeart動物実験


 東北大学では、日本中で開発された様々な人工心臓、人工内臓の動物実験が行われており、日本における様々な人工内臓開発におけるセンター的な役割を果たしています。
 北海道大学と慶応大学で開発されたバルボポンプや、東京大学で開発された波動ポンプ、早稲田大学で開発されたボルテックスポンプ、東京女子医科大学で開発されたEvaHeartなどの動物実験を行い、臨床への橋渡しを試みています。人工心臓だけでなく、人工括約筋や人工食道のような人工内臓の開発研究も行われています。
 最近、無拍動型の補助人工心臓の臨床応用が注目されています。スクリュー型の軸流ポンプや、回転型のロータリーポンプは既に欧米では臨床応用され、症例数を伸ばしています。
 日本でも、軸流ポンプとしては、北海道大学と慶応大学が協同でバルボポンプと言うシステム開発を試みていますし、回転型のポンプでもテルモのデュラハートはドイツで臨床応用され、サンメディカルのEvaHeartも国内での臨床試験体制に入りました。この他、東京医科歯科大学、茨城大学、産総研や国立循環器病センターなどでも、様々な無拍動ポンプシステムの開発が進められています。
 日本人は欧米人と比べて小柄なのですから、どうしても小型の補助人工心臓が必要です。
 こういう細かいものを作らせたら、本来なら日本の独壇場になるはずです。
 がんばれニッポン!
 補助人工心臓は本来、心臓に悪い方に埋め込まれるのわけですから、補助心臓で全身の循環を維持していても不幸にして致死的な不整脈を合併してしまう患者様も散見されます。 そこで東北大学では心停止下における補助循環の実験を 行ってきました。空気圧駆動型の補助人工心臓では、心停止状態でもある程度は左心補助人工心臓のみで循環が維持できることなどを研究してきました。 現在 は、国産の超小型ロータリーポンプとして注目されエバハートなどを用いて、例え心停止状態においても左心室の補助循環のみで全身の循環が維持できないか研 究を進めています。
 現在、エバハートの一例目の臨床例が成功裏に進んでいます。
 日本で開発された埋め込み型ロータリーポンプが日本で臨床応用されたのは初めてです。
 ROMの皆様も、開発中の人工内臓などのアイデアがありましたら、是非、東北大学との共同研究を進めましょう。東北大学では現在、医工連携や、産学共同研究を力強く進めており、加齢医学研究所は広く門戸を開いて、共同研究の扉を開けてお待ちしています。

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2004年12月18日土曜日


平成16年加齢研循環器年末症例検討会

平成16年、加齢研ME循環器年末症例検討会

12月18日、今年も加齢研MEの愉快な仲間たちが、医局に集まり、和やかな雰囲気のうちに、年末症例検討会が行われました。
東北厚生年金病院循環器センター、宮城県立循環器呼吸器病センター、仙台社会保険病院循環器科、宮城社会保険病院循環器科、公立黒川病院循環器科、 公立深谷病院循環器科、宮城県立がんセンター、高萩協立病院などで、循環器疾患を診療している医師たちが集合し、今年苦労した症例などについてトピック的 な話や、主催した学会なども、話題に、和やかに話し合っています。今年は、インターベンションの地方会や、クリニカルパスの学会なども主催され、臨床研究 の最前線の成果もあげられつつあります。
加齢研MEの仲間たちの病院を集めると、現在、4000例前後の入院患者を診療していることになり、心臓外科へも年間400例近くをご紹介申し上げており、カテーテルも年間3000件を超え、インターベンション患者は600近くになっています。
最前線の循環器の診療について厳しく、かつ和やかに話し合い、少しでも質の高い医療を患者様のために考えて生きたいと愚考しています。
会の後は恒例の忘年会です。
今年は西條助教授のセレクトにより、作並温泉で湯につかりながら、今年の診療の苦労を洗い流し、アルコールを傾けつつ来年への英気を養いました。
更新日時:2006/01/23 12:39:05
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