1985年5月20日月曜日

外来


もっと外来上手くなりたいな。

「もっと手術が上手くなりたい!」 「カテーテル検査が上手くなりたい!」 「内視鏡の達人と呼ばれたい!」と言うような欲求と、良きモチベーションを持つノイヘレン(新入医局員)は、東北大では、割と昔から多かったような気がし ます。勉強して医師国家試験を通り、意欲満々で研修病院へ出た初期研修医には、正しい方向性のモチベーションを持って頑張ってもらいたいと思います。た だ、不思議なことに、「外来の達人になりたい!」と言う、大望は、残念ながら、医学部の学生さんからは、あまり聞いたことがないような気がします。
 外来の診療部門は、どの病院でもどの科でも、入り口となりえる大事な大事な存在です。病気のある患者さんが外来から入院、治療、ある場合は手術を 受け、治療が終わればまた外来へ戻るか、ご紹介いただいた開業医の先生などへ戻ります。ですから、外来の部門は、ある意味では、医療の、アルファでありオ メガです。
 さて、そもそも困ったことがないと、患者さんは病院みたいな汚い所へは行きたくない。というのは、ある面では正しいかもしれません。汚い所を言う のは、外見だけでなく、新規の感染症などが発生しているときには、えてして病院が感染源になる事態も考えられるわけです。基本的に病院は普通の建物よりは 滅菌消毒には気を使っているわけですが、感染症を持った患者さんも外来を通られるわけですから、ベーシックには感染症の発生の危険は常にゼロにはなりえま せん。それだけのリスクを持っても(意識するにせよ、知らないにせよ?)困ったことを解決してほしい患者さんだけが、病院の門をくぐるわけです。
 再来の患者さんの場合は、ある程度は、診断名が決まっているので、およそ薬の処方だけで済む場合もありますが、診察を希望される場合には、何らか の困った事態が発生している場合があり、見逃さないようにしなくてはならないこともあります。ルーチンに陥ることなく、患者さんにとって最適なパフォーマ ンスを常に維持したいと思います。
 初診の場合、患者さんが、診察室に入ってくるときから勝負は始まります。(勝ち負けの問題ではないですが・・・)車椅子の方も、杖をついてくる方も、パーキンソンっぽい歩き方の患者さんもいます。扉を開けて、最初の1,2歩で、診断をつけることができる場合もあり得るわけです。医学的に確実で見逃しのないシークエンスで、問題解決へ直結させたいと思います。
 医学的に完璧を求めるだけでなく、患者さんの肉体的・精神的、そして社会的・経済的・環境的な状況を鑑みて、WHOの言う、健康の定義に則るシ チュエーションを具現化させてさしあげなくてはなりません。検査や必要な患者様だからと言って、経済状態が許さない場合も、特に地方病院などではよくあり ます。また、同時に、病院側・病院の医療従事者にとっても優れたパフォーマンスを維持しなくてはなりません。医学的に正しいからと、持ち出しにばかりな り、経営として成り立たないと、サステイナビリティに欠けるので、最終的には医療組織が消滅して、患者さんだけでなく地域全体が不幸になる場合もままあり ます。
 岩手県では多くの県立病院が閉鎖になりました。政治の貧困が地方の生活を直撃しているわけで、為政者は厳しく問われなくてはなりませんし、地域に 県立病院を維持する財政を持たせない税制の大問題もあります。東北地方のような田舎では、病院の閉鎖は、地域社会の消滅を意味することすらあります。他に 大きな産業がないのですから。そして、サステイナビリティに欠ける医療制度が放置された結果として、無医村に近い状態になる地方も、これからはどんどん増えるでしょう。そう、田舎にいると、病気をしたら死ぬしかない。という時代がくるかもしれません。
 正直、どの病院の外来で診療を担当していても、欲しいのは診療の時間です。患者さんから、丁寧にお話を聞けば、最低限、ある程度時間が必要です。 特に東北地方の方は(他の地方の病院で外来をしたことがないので、他の地域柄は良く知りませんが・・・)患者さんが遠慮深いのか、・・・「お変わりないで すか?」と、話を聴くと「う~ん、変わりはないんだけっとも・・・」と、(じゃあ、変わりあるじゃないですか?・・・^^)、・・・「何でも良いですよ お・・・」と。促すと、ようやく「そう言えば、ちょっとドキドキすっけっとも・・・、前からだから~・・・たいしたことないです」などなど。  まず、患者さんの話を快く聞き出す方向へ持って行くのに、こちらが心を開いて、いつもニコニコ、決して急がせず、ゆっくりお話を聞いていかなければなり ません。達人への道はなかなか険しいと感じる時もあります。困ったことに、今の日本の医療の現状では、一人当たりを丁寧にみれば、当然、単位時間当たりで 診られる人数が減るので、病院全体の経営に直結してしまいます。今のシステムでは、外来で1人診ようと100人診ようと、医者の給料はおんなじですから、 当然、病院経営の面だけなら、同じ給料でたくさん患者さんを診させた方がベターということになります。あまり時間をかけていると、だんだん、周りの看護師 さんや、待合室の次の患者さんの眼が険しくなるのを感じる時もあります。仕事は進めなければならず、でも、パフォーマンスは下げられません
 もっともっと外来の達人になってみたい。患者さんにとって最適なパフォーマンス、病院にとってサステイナブルな、病院職員にとっても最適な外来診 療の具現化を!と、私も思いますが、こういう志を医学部の学生さんたちにも持っていただくためにも、一人一人を丁寧に診ても病院の存続が可能になるような 医療費の体系が必要だと感じます。

さあ!勝負!

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